民法改正の対応で印紙が4000円になる!?【落とし穴】

企業法務

本年4月1日から本格施行される改正民法。
世の法務部員がどれだけ民法改正を意識しているでしょうか?
ひな型の修正に着手しているでしょうか?

私は、業界の様子を見てまだ抜本的に変更したりしていません。
しかし、日常業務では契約書でボチボチ「契約不適合」といった条項を目にするようになりました。

雑誌の民法改正特集においても、改正内容にまんべんなく触れていますが、やはり「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」への変化をクローズアップしたものが目につきます。

そこで本日は、契約不適合責任について、民法改正をもとにひな型を修正するとこんな変化があるのではないかと、過激なタイトルを付させていただきました。

最後までお付き合いいただければ幸いです。

瑕疵担保責任についておさらい

まずは、簡単に現行の瑕疵担保責任についておさらいします。知っているかたは読み飛ばしてもOKです。

売買される目的物に生じた欠陥・不具合を「瑕疵」とよびます。

中古車のような「特定物」は、この世にひとつしか無い物ですから、買主が「これをください」と言えば売主は、これ例えば、「このカローラ」を引き渡せば売買契約を履行したこととなります。この考えを「特定物ドグマ」といいます。

仮にカローラが故障して動かなかった場合であっても、「このカローラ」は世界にひとつしかありませんし、動く「このカローラ」は存在しないわけです。

買主の意思表示としては、「これをください」といいましたが、いくらなんでも動く中古車がほしくて「これをください」といったわけです。
しかし、特定物ドグマから、売買契約の履行は完了しており、債務不履行責任を追求することはできません。

この不均衡から買主を救うために作られた条文が、570条の瑕疵担保責任だ、というのが法定責任説の考えです。
ですから、あくまでも履行は履行として終わっているのだから、契約の解除か、故障している分の代金減額分の損害を損害賠償として請求できるに過ぎません。

ですが、解除か損害賠償かしか選べないことは非常に不便です
上述の例で言うと、買主はこのカローラが動けば不満がないことから、修理してあげれば紛争は解決できます。
また、修理できなくとも、同じ年式のカローラを代わりに渡すことで買主は満足できるはずです。
また、判例法理で確立されたものの、本来的には特定物にしか適用できないものでした。

よって、実務においては、任意条項である570条を修正して、瑕疵修補や代替品の提供を契約書で定めることで、上記の問題点を乗り越えてきました

契約不適合責任との違いは

前述の瑕疵担保責任における「瑕疵」は目的物の欠陥・不具合をいいます。

欠陥・不具合については、取引の目的や、目的物の性状、取引の慣行など幅広い事情が基準となって判断されます。

これに対して、契約不適合とは、「目的物が、種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合していないものである」ことを言います
契約不適合は、判例で示された「瑕疵」の内容を明文化したものだと解されるため、「契約の内容」について、瑕疵と同様に、取引の目的や、目的物の性状、取引の慣行など幅広い事情によって判断されます。

この点、瑕疵=契約不適合 と思っても差し支えないです

瑕疵担保責任が、解除や損害賠償を前提としたものに対し、契約不適合責任の場合は、それらに加え、契約不適合を解消するための追完請求、すなわち修理や代替品の納入が規定されています。

実務上、「瑕疵担保責任」と契約書で記載されていても、内容は、改正民法の契約不適合責任と同様のことができるような記載となっています。

しかし、実際に法律が改正されていて文言が変わっており、改正民法下での判例において、従来の瑕疵担保責任で登場した問題点について同様の判断がされる保証はありません。

よって、多くの民法改正の書籍において、「契約不適合」を明確にするため、契約書に、「どうしてこの契約を締結することになったのか」、「契約の最終目的は何か」を具体的に記載することが望ましいといされており、サンプル条項として、以下のような例が付されています。

乙は、甲が○○の目的で消費者向けに販売する△△に使用するために本製品の製造を甲に委託することを確認する。

実務では

実務においては、現行法上の瑕疵担保と同様の規定を「保証」、「瑕疵担保」といった条項で定めることが通常です。

また、条項においては「隠れた瑕疵」と記載される場合もありますが、ほとんどの場合は、単に「瑕疵」と記載されており、効果も修補・代替品の納入・代金減額・代金返金・解除・損害賠償(履行利益も含む)と多岐に記載されていることがほとんどです。

民法の瑕疵担保責任については、任意規定であるため、当事者の合意内容が法令に優先するので、上記のような実務上の記載も有効となります。
つまるところ、実務上は、法令改正によって影響を受けるまでもなく、そもそも契約不適合責任のような定めになっているのです

しかし現状、取引基本契約のひな型には、以下のような簡易的な記載が多いと思います。

例1.甲と乙は、甲乙間の取引に関し、次のとおり取引基本契約を締結する。
例2.甲と乙は、甲の○○(製品名)の加工を乙に委託することに関し、次のとおり取引基本契約を締結する。

また、目的規定も置かないケースが多々あります。
(そのくせ、「総則」と規定し、甲及び乙は、本取引が相互の信頼に基礎を置くものであることを認識し・・・などつらつら定めたり・・・実務ってめんどくさいですね・・・)

大袈裟な変更は本来的に必要ないはずですが、簡易に記載されているひな型が多いため、これを期に民法改正の対応を焚き付けるかのごとく、書籍が出版され、雑誌で特集され、顧問弁護士さんもネタにして、一種の過剰反応が起きているのではないかと思います。
(もちろん、前述の通り、瑕疵担保責任=契約不適合責任となるような判例になるとは限らないし、法令改正なのだから対応して当然です。保険をかけて対応させておくに越したことはありません。見直したことで他の不備も発見・修正できることもありますから。)

こうした事情から、ひな型を修正して「契約不適合」に合わせるため、目的をしっかり定めなきゃいけない!という流れができてくるんじゃないかと思います。

まとめ

そうすると何が起こるか、もうお分かりですね。

目的規定がない、「甲乙協議で定める仕様」や「別途定める仕様」という抽象的な文言から、頭書や目的規定で、特定の製品や、ども目的で製品が使用されるか、はっきりと記載されるようになります。

例えば、「甲の製品である○○に使用するため、乙の加工品である△△の製造委託に関し」など、具体的に製造委託/売買する製品が特定されることとなります。

基本契約書の有効期間は3ヶ月を越えると思いますので、印紙税法上のいわゆる7号文書となります。

7号文書「継続的取引の基本となる契約書」
(1) 売買取引基本契約書や貨物運送基本契約書、下請基本契約書などのように、営業者間において、売買、売買の委託、運送、運送取扱い又は請負に関する複数取引を継続的に行うため、その取引に共通する基本的な取引条件のうち、目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格のうち1以上の事項を定める契約書

何が契約不適合に該当するか、目的物を明確にするため、上記の赤字部分に該当してしまうこととなります。

そうすると、民法改正に対応するあまり、印紙代が4000円となります
差額は、3800円となり、結構でかい出費です。
間接部門なので特に節約については意識しないと……

ここまでして、民法改正の「契約不適合」部分に無理に対応させる必要があるのでしょうか。
私レベルの法務ではわかりませんが、個人的には必要ないんじゃね?と様子見しています。
どうせ、はなから曖昧な契約書が多いですし、別途仕様書やその他もろもろの書類から、取引基本契約書に具体的に目的を定めなくとも、契約不適合における「契約の内容」は特定できるのではないかと。

もちろん、「こんな甘い考えで何が法務だ!」「法律なめてんの?」といった、法曹有資格者や同業者からの声はありそうですが……
製造業では特に、ビックリするくらい中身のない契約書があります。
というか、覚書や指示書、仕様書を見て初めて製品や具体的な取引が想像できる類の契約というか…

ですので、製造系の法務の方は、大手企業や取引している会社、自分より大きな会社の潮流を見てひな型を変更していけばいいのではないかと思います。

とりわけ、強行法規に抵触する部分はあまりなさそうですし。

というわけで、今回は民法改正の中でも特に契約不適合だけに絞り、そこまで焦って対応する必要はないのではないかと持論を述べましたが、「債権譲渡」や「危険負担」についても変更がある部分ですし、「保証」についても変更があります。

少なくとも、強行法規に該当する部分については対応しないとオンでもないことになりますので、改正対応や全体知識のインプットはお早めに!
(まだ間に合いますが、出遅れ感は否めませんよ……)

それではまた!