契約書はいらない!ということもあるんです!

企業法務

製造業界ではラインマネージャーの方や業務管理の方から契約書の確認依頼が来ることもしばしば。
機械の発注・保守・修理、建屋の修理・清掃、倉庫の賃貸借などが主な内容です。

詳細をヒアリングするにも、基本みんな忙しいのでレスポンスが遅く、こちらも現場の時間を奪ってはいけないと気を遣うしオフィスで使う用語と異なる用語ではなされるので困惑することもあります。

先日、機械の保守契約を締結するときに現場の方から、「発注書と請書ではだめですか?」と質問されました。
こういう質問結構あると思います。

そこで本日は契約書って必要なのか、必要じゃないパターンがあることについて記事にします。

この前の投稿では「契約書は必要です」と記載しましたが、現場に根差した法務サービスに当たって契約書を作成しないことにも意味があるんですね。

それでは最後までお付き合いください。

契約書の必要性についてはコチラ

契約書が必要ない場合

以下に沿って契約書の作成が必要でない場合を説明します。

  • 作成自体にリスクありパターン
  • 超低リスクパターン
  • 内容を再検討すべきパターン
  • 現場の利益パターン

説明に当たり大前提を…
契約書の作成においてはどんなリスクがあるのか情報を幅広くとらえることが大切です。
ですが、リスクの抽出だけに徹すれば「企業で働く法務」として失格です。

どのような法的リスクがあるのかは弁護士に説明してもらえば済む話です。
(できる弁護士の方はリスクに加え社内事情や業界事情も加味してくれますが…)

企業に勤める以上、リスクとコストのバランスも重要なわけです。
リスクがあるからできません、なにがなんでも契約書を作成しないと進まないという姿勢ではお話にならない。

かといってリスクを捉える点について企業法務が弁護士に劣ってよいのかといえばそれは違います。
弁護士には劣りますが…弁護士ではないので…といっていたら法務の存在意義がありません。

よって、法務マンとしては取引から生じるリスクを適切に拾ったうえで、コストと時間を衡量して契約書を作成するか or しないか、どこまで契約書に記載するか or しないかを考えることが前提になります

紹介するパターンすべてに契約書の作成が不要というわけではないことに留意してくださいね。

作成自体にリスクありパターン

皆さんの会社でも基本契約書を作成せず取引することがあると思います。
昔からの付き合いがある会社とか先方から締結拒否された場合など様々です。

実際に訴訟となれば商慣習や従前の取引態様に沿って契約条件が判断されることはいうまでもありませんが、契約書を作成していない以上、民法・商法が適用されることが原則となります。

よくよく考えてみてください。
民法・商法の原則が適用されて不具合がありますか?

不具合がないにもかかわらず契約書の作成を依頼する場合は、不利な条件を相手から押し付けられるきっかけになります。
自社が売主なら買主ひな型が優先されやすいと思いますし、先方が大企業であればまず先方ひな型が採用されると思うので。

契約書なしで滞りなく遂行できた取引になぜ水を差すのか?という疑問を持つ営業担当者もいると思います。

この状況で基本契約がないから締結しなければと締結に走るのは愚策以外の何物でもありません。

個別の契約条項にもいえることですが自らが中小の売主の場合にわざわざ「ISOやISMSに準拠する的な条項」や「貿易制度に準拠する的な条項」を入れる必要がない場合もあると思います。先方から指摘されてから入れることもできるので。
(というかおよそ対応できないのにひな型に入ってるからそのまま締結していることも多いように見受けられます。)

ただし、契約書を作成しないことがすなわち受発注書面を作成しないことにはならないことに注が必要です。
そんなことはないと思いますが、受発注書面は作成して保管させるようにしましょうね。

超低リスクパターン

会社が備品のノートやペンを買う。什器の椅子を買う。

契約としてみれば鉛筆一本でも不良があるかもしれません。
しかし、会社の経済規模から見れば限りなく金銭的リスクがゼロといえるパターンがあります。

また、金銭的リスクに限らずその場で検収して現金決済する場合など単発一度きりで内容を振り返ることがない契約もあります。

このような場合、契約書を作成する必要はありません。
「ムム?この明日来るという会社から備品を買っているのに契約書の取り交わしがない!」といったら笑われます。

会社によっては契約書作成の基準を設けているのではないでしょうか。

例えば「1年以内に2回以上取引しかつ1回の取引金額が30万円を超える場合には基本契約を締結する。」など。

一概に線が引けないことから法務に判断が任されることもあると思います。

新任時代は一人法務だったのでよく困った記憶があります…
私は契約書を作成せず進めることも多いです。
むやみに作成すると契約書の管理が面倒、現場保管の場合はなおさら管理できないので。

内容を再検討すべきパターン

契約書を作成してくれと依頼されいざ作成すると「五箇条の御誓文」みたいになって
「なんだこれ?」ってなったことないですか?笑

契約書作成依頼から無理に契約書を作ると「何を実現したいのか」目的を見失って当たり障りのない(権利義務の定めがない又は不明確)契約書になりがちです

また、特に三者間契約を作成する場合にありがちですが、メーカーと「商社・下請」や小売りと「メーカー・下請」の三者で契約する場合は、カッコでくくった部分に連帯保証される意味合いが強くなります。
(法的な連帯保証という意味ではなく、)

この場合カッコでくくった当事者間のやり取りは明確にされずに契約書作成が進むことがママあり、下請にとってはメーカーや小売りに対して何の義務を負うのか定かでありません。
いざ問題が起これば製造物責任等で責任を負わされる立場なのでリスクしかありません。

販売店・代理店の区別なく進む契約も同様です。

取引内容を営業担当者にヒアリングし、「この部分はまだ定まっていない」、「正直決めていない」と回答があれば無理して契約書を作成するべきではありません。

もちろん、ドラフト段階で法務を交えて先方とやり取りする場合にはこの限りではありませんが「何が目的か」スキームがしっかり定まっていない場合は契約書作成せずにまずそこを詰めさせましょう。

現場の都合パターン

本投稿冒頭に記載した機械の保守契約の例で、私が契約書を作成したかというと……

保守契約の内容は毎年簡単な動作点検と無償の部品交換を年1回、金額も30万円にも満たない金額。
測定器が壊れて業務が滞ることの逸失利益を考えれば金銭リスクは低いとは言いえません。
しかし、保守点検で不具合が生じる確率的な低さに加えて、保守契約書のひな型をメーカー、代理店共に有していない、保守契約書作成の実績もありませんでした。(それってどうなのよ…という疑問は置いといて)

点検条件と有償交換になる場合の部品リストを添付した受発注書面だけでやってきたとのこと。
点検後の不具合保証について受発注書面に明記することは先方に心的抵抗があり上にあげなければ判断できない⇒今回の点検作業はそれからなので遅れては困るという現場の声や、受発注書面だけでよいのではないかと疑問も投げられていました。

契約していること自体やその内容は受発注書面で明確になりますし、問題が生じれば民法の請負準拠でコト足ります。

よって、この事例では契約書を作成しませんでした。

追記【2020/05/23】

法務主体で契約書の必要性を考える場合には上述の思考でも問題ありません。

ただし、経理・財務上の必要性で取引があったことを証明する「書面」を求められる場合があります。
個別契約の受発注書でも書面であることには変わりないですが、「契約書」がその書面として求められる場合があります。

よって、法務主体で契約書の有無を検討するほかに、経理・財務の点からも必要性を検討しなければなりません。
この辺については知識が乏しいのでどの場合に受発注書面ではなく契約書が必要かお示しすることはできませんが、法務として必要なことは社内で経理部に強い味方を作って知識を得ること。

案件によっては法務よりも先に経理へ話が行く場合があるので、そこで契約書が必要な取引が出れば連絡をもらう体制を作ることが重要なのではないかと思います。
法務と経理の連絡網がなければ、営業が両者に別々にヒアリングして手間を取らせることにもなりますし、取引開始ギリギリの場面でやっぱり契約書が必要となり我々が焦って作成しなければならない事態に陥ります…

まとめ

いかがだったでしょう。
必ずしも契約書が必要なわけではないと分かったと思います。

新任時代はまず知識を蓄え「内容を精査できる」ことが大切です。
続いて、脳内アーカイブに沿って「契約書を作成する」ステップに移り、
最後には、「作るか作らないか」の判断ができるようになります。

(生意気なことを言いますが筆者は65%にも満たないくらい未熟です)

内部監査等で「取引先と一律に基本契約を締結すべき」と指摘される場合もあるでしょうが文面通りに進めてはいけません。
顧客リスト上で基本契約を締結しない会社にはその理由を記録するようにしましょう。

動いてリスクを取り除く、動かないことでリスクに飛び込まずに済む、この両面からのアプローチが大切です。

コロナウイルス禍ですから動かないことでリスクに飛び込まずに済むよう、身に染みている今日この頃。
ゴールデンウィークに入りますが皆様ご予定はどうですか?

私はひたすら読んでいない本の消化に努めようと思います。
それでは皆様、良いゴールデンウィークを!