【下請法】有償支給材料の早期決済禁止について
どうも、お久しぶりです。
6月は株主総会、続く取締役会があり総務部員は忙しいことこの上ない日々をお過ごしかと思います。
私も5月6月は忙殺され満足にブログ更新もできませんでした。
そんな中、とある事件が起こったのです。
下請法書面調査「1年ぶりにきたやでー!邪魔するでー!」
吉本新喜劇のように邪魔するんやったら帰ってーという気持ちですが、やらなければならないものは仕方がない…
皆さんも同様の状況かと思います。本当にお疲れ様です。
ということで、本日は下請法、「有償支給原材料等の早期決済禁止」について取り上げます。
この分野、阿吽の呼吸でうまく見合い相殺が行われているだろうと思っている法務の諸氏もいると思いますが、現場がかなり適当に処理しているケースもママあります。
特に製造の中でも電化製品や自動車、ハウスプロダクツ等を扱う成形品メーカーは要注意です。
以下注意点と解決策について取り上げます。
(支給材、支給品、支給材料など呼称は様々ですが、ここでは支給材料と呼びます。)
目次
有償支給材料に関する規制
有償支給材料とは、事業者が外注先に対し支給(販売)する部材や半製品等のことを言います。その部材等を外注先が加工した後に、支給材料を支給した事業者は外注先から完成した製品を買い戻します。こうした取引を支給材取引と呼ぶこともあります。
製造業界ではごく当たり前に行われている取引です。
下請法では、親事業者が有償で支給した原材料等の対価を、当該原材料等を用いた給付に係る下請代金の支払期日より早い時期に相殺したり下請事業者に支払わせたりすることを禁止しています。(法第4条第2項第1号)
なぜ禁止しているのか?
親事業者が下請に対価を支払う前に支給材料の代金を下請に請求すると、下請は代金の前払いをさせられることとなります。
さらに、支給材料を使用して完成した製品を親事業者に収めたとしても受取拒否や不当なやり直しをさせられる場合もあります。
資金力が不安定な下請が先払いをさせられ、製品の代金も得られないこととなると資金繰りが悪化し容易につぶれてしまう。
このような背景をもとに親事業者は圧力をかけることもできます。
よって、下請法で早期決済が禁止されます。
新人の頃は、下請法に違反するおそれもあるのになぜこんな取引をするのかと疑問を持っていましたが、支給材料の取引には以下のメリットがあるのです。
親事業者のメリット
- 親事業者には大手メーカーが多く、下請に製品原材料を購入させるよりも自社で一括大量購入してそれを下請に支給したほうが製品単価を下げることができる
- 自社から材料を支給することで、原材料の品質を安定させることができ、完成品のクオリティを保ちやすい
- 預託購買方式をとることで場所や在庫管理の手間が省ける
預託購買方式とは、自社から委託先や外部倉庫に製品の在庫を預けて、委託先が当該製品在庫を使用する際に買い付けを行った扱いにする方式をいいます。
例えば、親事業者Aが下請事業者Bに製品Xの製造に必要な材料Yを支給するとします。
Aは自社に大量の原料在庫を置くことも手間ですし、必要な都度Bに発送することも手間です。よって、外部倉庫やBの工場内にYを預けて、Bが支給材を倉庫から出して使ったときに「BがAからYを買った」とする方式です。
※便利な方式ですが、製造業界では下請の工場内に直接保管させることも珍しくありませんし、下請が借りた外部倉庫に製品を保管させることも多いです。その場合、下請に場所代を負担させることになるので、下請から購入する製品単価に倉庫代を上乗せする or 倉庫代を別途支払わないと下請法の禁止する不当な経済上の利益の提供要請の禁止(法第4条第2項第3号)に該当するおそれがあるので注意してください。
※あくまでも使用されるまでは親事業者Aに所有権があります。よって、親事業者Aは自己の資産として棚卸を行う必要があります。
※下請の倉庫や工場に預けた在庫の損害保険については下請に負担させる例がほとんどではないかというのが私見です。製品単価に上乗せしているのか不明ですが、これも場合によっては問題になるのではないかと疑問があります…
下請事業者のメリット
- 親事業者から原材料を購入する方が材料価格が抑えられる
- 材料を自社購買し検査するよりも親事業者の要求する仕様に合致した支給材のほうが都合がよい
- 預託購買方式の場合、定期的かつ長期的な取引が期待できる
成形材料の注意点
というわけで、製造業界では支給材料を用いた取引が多く存在しています。
支給材料が「個」、完成した製品が「個」で判断できるものの場合は単純明快。早期決済禁止に違反するおそれは少ないです。
どういうことかというと、親事業者が半製品を10個支給し、下請事業者が完成させた製品を10個納入する場合、管理は簡単なので完成品10個を納入するまで半製品10個の代金を下請に請求できない。
ただそれだけの話です。
しかし、プラスチック等の樹脂材料を成形する場合、材料は小さな粒であり、キロ単位で袋詰めされています。
ですから、製品1個あたりに1袋とはならないんです。
10グラム当たり1個できるという概算はあっても、微量の誤差や仕損(失敗作)が出る場合があり、支給された材料を使いきれなくなったり端数がでたりします。
その場合は、先月支給された材料と今月支給された材料が混ざる可能性があります。
完成品の視点から見たときに、この完成品は先月支給した材料からできているのか今月支給した材料からできているのか全く判別できません。
ですから、親事業者は完成品納入の翌月末に支給材料の代金を請求すると、まだ有償支給材料が消費されていない場合があるんですね。
知らぬ間に下請法違反しているわけです。
有償支給材料の早期決済をしないために
下請法に違反しないように通常は「見合い相殺」が行われます。
有償支給品の代金支払い条件を「月末締め翌月末支払い」、製品代金の支払いを「月末締め翌月末支払い」と合わせ、月末に両債権を相殺することで早期決済が行われないようにしています。
相殺すると、製品代金支払いと有償支給品の代金支払いが同時に行われていることになるので「早期決済」にはならないのです。
しかし、ここにも大きな落とし穴があって、前述のように支給材料が「個」で計算されずに「量」で計算される場合や、支給材を支給してから製品ができるまでに30日以上かかる場合、支給材料の支給が月内に複数回ある場合は支給材の支給と製品の納入が1:1の関係になりません。
その場合は、次の図に従って、①有償支給材料の代金請求を後ろにずらすか、➁有償支給材料の代金請求の締日を前にずらすことが求められます。
(有償支給材料の代金決済条件を「月末締め翌月末支払い」にしている場合であり、製品の代金決済条件も「月末締め翌月末支払い」にしている前提で進めます。)
支給材代金請求をずらすパターン
4月中に有償支給材料を支給したとしても、それが完成品になり納入されるのが4月と5月をまたぐ場合、5月末に有償支給材料の代金を請求することができません。
この場合、有償支給材料の決済条件を「月末締め翌々月末支払い」にすることで早期決済を確実に防止できます。
「翌々月」のところは製品の完成にどれだけ時間がかかるかによって左右して調整します。
支給材代金請求の締日をずらすパターン
パターン1と異なり、有償支給材材料を月内に数回支給する場合、月初に納入した支給材料は当月中に製品にできるが、月末に仕入れた支給材の場合は当月中に製品にすることは困難な場合にこのパターンを用います。
有償支給材料の代金請求月をずらすことはよく行われますが、締め日をずらすこの方法、案外盲点で行われていなかったりします。
下請事業者に説明、納得してもらう必要がありますが一考の余地ありです。
そもそも・・・
有償支給ではなく無償支給で対応する方法もあります。
無償支給材料を用いる場合は、親事業者は下請事業者に何も支払いを立てる必要はなく、下請事業者に加工費のみ支払うこととなります。
もっとも、下請事業者が仕損した原材料については下請事業者の責めに帰する損害になりますので親事業者から別途費用請求することとなります。
また、「無償」という点が思いのほか下請の仕事の仕方に影響することがあります。
有償支給材料の場合は、下請事業者が費用を支払うこととなるので丁寧に扱われ、仕損の内容にしよう!となります。
嘘のような本当の話で、無償支給にすると下請法無視できる大きなメリットがありますが、仕損が増えるデメリットがあります。
加えて、預託購買方式のように、無償支給材料を下請に保管させる場合は資産管理の点で棚卸が必要になり管理の負担が発生します。
この点、預託在庫方式を利用せずに有償支給で売り切る方が楽ですね。
小話
成形メーカーで支給材料が汎用材(一般的に売られている材料)の場合、下請は自調達するよりも親事業者から支給材料を購入したほうが安く材料を仕入れることができます。
汎用材は親事業者から依頼される製品の製造以外にも使用することができるため、支給材料を購入するときに多めに購入し、別の製品に使うといったことも生じます。
もちろん、親事業者は安く仕入れた支給材料をこういった形で使用されることは本意ではないので、大量に漫然と行われることはありません。
しかし、長年の付き合いで便宜を図って多少の余裕をもって支給材料を販売することがあるのです。
その場合、親事業者から購入した材料が支給材料として購入した材料か、それとも自社で流用しようと購入した材料か分別がつかなくなります。
親事業者からすると、この支給材料の代金を下請に請求してよいかなおさら判断ができないこととなります。
また、こうした取引が横行することで、有償支給自体を支給と区分せずに、「これは単なる購買」と判断し、有償支給原材料等の早期決済禁止を一切守っていないケースも見られます。
下請法がこんな取引は想定していないから生じるのでしょうが、下請法はシステマチックに適用されます。
有償支給原材料とは、自社の製品を製造させるために支給した原材料・半製品等を広く含みますので、これは支給材料、これは自社用といっても決済条件だけ見て違反しているといわれかねない危険性があります。
また、この場合公正取引委員会の下請相談窓口に相談してもろくな回答が返ってきません。
下請法で本来想定されている取引ではありませんし、不安ならやめとけば?くらいにしか答えてくれない。
不安を抱えたままの取引となるのでなるべくやめておく方が吉です。
まぁ、最も有償支給材料にかかる違反は、公正取引委員会でも証拠集めや証明が難しいでしょうし検挙の件数も多くないので危ない橋を渡る判断をする事業者もいるかもしれませんが……
最後に
というわけで、有償支給材料の取り扱いについて、特にパターン➁の方を参考にしてみてはいかがでしょうかといいたくて記事を起こしました。
他の有名法務ブログの方は、こんなに忙しい時期であるのに読み応えがあり、根拠もしっかりした記事をかけてすごいなと…
脳みそ2個ついてるんかな…と思いつつ仕事をしています。
今月は残業もすごいので来月の給与が楽しみです。
ボーナスも入ったし欲しかったG-shockでも買おうかな。
といったところで総務・法務の皆様、もう少しの頑張りです!
これを乗り切って夏休みまで走り抜けちゃいましょう!
本日は以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。