【製造系必見】契約書チェックと交渉のポイント【内から外から考えよう】

企業法務

どうもこんにちは。

バックオフィスで働く法務マンにとって魔の年度末が終わりました…
年度内に済ませたいと事業部門からおびただしい数の契約書チェック依頼が…
このような依頼は往々にして「早く締結したいから!」とせかされますよね。
ひとり法務は忙殺されて無修正で「先方ひな型にて締結OK」を連発していませんか?

本日は、法務としてベーシックな内容ですがゆえに奥が深い契約書チェックと交渉のポイントについて記載します。
慣れたと思ってもうまくいかず、気分が落ち込むこともありますがこの記事が皆様の一助になれば幸いです。


契約書チェック

交渉云々の前に、まずは取引に鑑みて契約書のどの部分に、どんな問題点があるのかを抽出しなければなりません。

交渉がいくら上手な人でも問題点抽出センサーがバグっていれば何の意味のない弁論家になってしまいます。
よって、まずは契約書チェックの方法を工夫し、センサーに磨きをかけましょう。

事前準備

流れるように処理している契約書チェック。どのような点を意識していますか。
取引の詳細を口頭で教えてくれたり、依頼メールに記載してくれる場合もありますが、契約書添付のみの簡素な依頼であることも多いです(むしろほとんどそう?)。
ですので、契約書をチェックする前に事案を確認しましょう。
「チェック前に事案確認」これ鉄則です。

見ながら確認する人ももちろんいます。依頼部門や取引先名から対象となっている製品やサービスがわかったり、契約書のタイトル、一瞥した感じから大体の取引内容はわかるので。ただし、その認識が誤りの場合も往々にしてあります。
また、依頼部門が取引先名や添付する契約書を間違えてたという経験ないですか?
そういうことです。ヒアリングの濃淡をつけるにせよ、事案確認が必須なのです。


事案確認の際、慣れないうちは契約書を効率的に確認するために、事業部門にヒアリングする項目のフォーマットを用意しておくのがいいかもしれません。
社内で契約書チェックの申請様式を定めていたり、チャットボットがチェック申請の入口になっている場合にも同様にフォーマットを定めておくことが効果的かと思います。

なお、弊社では契約書チェックを申請するためのフォーマットは準備していません(メールベース、自由記載の依頼となります)が、後任者育成が必要になった場合、チェック項目を言語化しておくと便利です。ノウハウの蓄積です。
特にひとり法務の場合は、日ごろからノウハウの言語化を意識するためにフォーマットを作成するようにしておきましょう。

フォーマットの例

項目はあくまでもご参考にしてください。
また、取引の実態面と社内手続の両面を入れておくことがポイントかと思います。

➁については部門判断できない場合もあるため「不明」を設けています。
また、⑨は他業界ではどうか知りませんが、製造業界では契約締結が取引開始に劣後することがあります(厳密にいうと取引開始している時点で契約は締結しているのですが契約書という形になっていない。)。
この場合は、問題が生じる前に契約締結をすべきなので、事業部門に素直な報告を求めるために項目をあえて設けています。
(具体的にはすでに行われた取引も締結した契約書に則り行われたようにするなど処理が必要。)
⑪や⑫については、社内手続き的な内容ですが事前に聞いておいた方が後の手続きがスムーズになることに加え、依頼時点で依頼部門にその後の流れを意識させることができるので効果的かなと思います。項目を設けることで、「埋めなきゃ!」となって調べてくれることもあるので。
電子的にフォーマットを作成する場合、いくつかのパターンに絞られる項目はプルダウンにしておくと依頼者が迷いにくくなるのでGoodかと思います。
また、フォームの入力必須項目を設けて、入力しないと依頼に進めるようにしないなども検討。

ただし、ここは企業風土やどこまで事業部門に負担を求めるかによると思います。
フォーマットを準備するメリットとして、行きあたりばったりな依頼が減ることですね。ただし、依頼部門にとって、事務手続きの煩が発生するので回答をメールベースでもよいことにする、一部省略可とする、社内手続き部分については法務からヒアリングするなど工夫が求められます。
丁寧に事前確認を行うことで、ビジネスを描くことができ適切に修正や追加の条項が浮かびます。

他に契約があるか

また、上述の時効がヒアリングできたら、対象取引先と過去締結した契約書がないか要チェックです。契約書管理システム等が全社に開かれていない場合、担当者の変更から基本契約の締結が重複されてしまう場合もあり得ます。
また、既存取引先と別件で契約締結があればその内容を参考にできますし、契約書をチェックする際に紐づいた契約に影響を与えないかの観点を得ることができます。
営業担当者も管理をしておらず、営業経由で先方に聞くこともみっともないので避けたいです。
過去に締結しているか不明な場合は、原則として最新の契約書が優先的に適用されますが、重複しないに越したことはありません。前もって調べられるなら調べましょう。

よく問題になりそうな条項

さて、これらのプロセスで事前に情報を得た後、実際に契約書チェックをしていくことになります。
すべての条項が大切なのは言うまでもありませんが、当然、お金に関する条項と事務負担を定めた条項は要注意です。多くの書籍で契約条項について解説されていますし、ネット情報も豊富です。
業界や取引でよく用いられる条項についてはこれらを活用し頭に叩き込んでおく必要があります。

例えば、こちらの本が評判がいいです。新人のみならず部・課に1冊おいておくとよいです。↓

ですが、穴が開くくらい契約書を眺めても「規定されていない条項」は出てきません笑
めんどくさい事前準備でなぜ取引を描けるように努力したのか。結局は、必要な規定が抜け漏れていないかを判断するためです。
取引がわからなければよく用いられる条項を知っていても、それを定めるべきかの判断ができません。
自分で考えずにネットで情報を得ることはできますが、「○○の取引なら△△の条項が置かれることが多い。」と知ったところであまり意味はないのです。
なぜなら、事業部門から依頼を受けた当該事案でその条項を定める意味がなければ何の意味もありませんし、意味のない条項を増やせばその後の交渉が難航したり、先方からの質問に自分が答えられなくなったりします。

ここはいくら賢い人でも法律学を学ぶだけでは上達しない、経験するしかない部分です。
日ごろから文面のみを見て「3日以内」と「3営業日以内」に修正していたりしませんか?(それも大切ですが…)
取引の理解なしに字面をなぞっているだけでは必要なセンサーが磨かれません。
めんどくさいけど実は近道。コツコツ丁寧に。
(法務マンにはどえらく賢く要領もいい人がいるので全員とは言いませんがね…)

とはいえ、どんな条項が問題になりやすいか気になるでしょうから、あくまでも「製造業」、「基本契約」を前提に比較的問題になりやすい条項を簡単かつ適当に吐き出します。

受発注関連について

・個別契約成立のやり取りについて、いまだにFAXを用いて発注書を切っている会社もあります。ですので、細かい点ですが「押印した発注書」が求められる場合、FAX送信はNGとなります。
自社が事務的に対応できない場合は修正。自社が当該書面を求める側の場合は勝手に「FAX送信でOKだろ」と「押印した」を削除してはいけません。内部監査の監査項目となっていれば、押印した発注書を受け取っていない時点で指摘対象となりますので社内手続きの都合を確認してください。
・また、個別契約成立後の条件変更について、買主が一方的に変更できる内容になっているものも多いです。明文として規定されていないからといって、変更によって売主に生じた損害が賠償されないわけではありません。ですが、「買主が変更できる」と規定されていれば無条件な変更権が与えられているとみられかねません。自社が売主側の場合には「売主に生じた損害を賠償のうえこれを変更できる」的に修正すべきです。

検収関連

・合格不合格にうるさいのに検収期限が設けれらていないことが案外あります(始業時間にうるさいのに終業時間はあいまいだな…的な?笑)。
売主側の場合は「買主は製品受領後○○営業日以内に納入検査を実施しない場合は、当該製品は検査に合格したものとみなす。」など検収期限を定めるべきかと思います。検収期限は個別契約上で定めればいいことかもしれませんが、売主側の見積もりに検収期限を記載したり、買主側の発注書には検収期限が記載されないことも多いかと思います。売主が、買主からの発注書に対して検収期限を定めて承諾(再申込)する形で請書を出すことも通常しません。ですので、基本契約で定めたほうが現場が助かります。
よく「納入後速やかに」、「納入後遅滞なく」などと記載されます。商法526条1項から法的には納入後、合理的期間内に買主が検査を行わない場合は契約不適合責任を追及できない=実質的に検査に合格したものとみなされますから、このような規定でもいいような気がしますが、「だからそれはいつやねん!」となりますので、私見としては明示的に定めたほうがいいと思います。
ただし、基本契約は種々の製品取引に適用されますから一律で期限を設けたくないと買主側からは主張されることは必至なのでご留意ください。

危険負担や所有権関連

製品滅失の危険移転時期や所有権の移転時期が「製品納入時」とされている場合注意が必要です。先ほどの検収と関連し、①検収合格=納入とみなすと規定している場合、➁検収合格と納入を紐づけない場合があるためです。
①の場合は、製品の「受領」と「納入」の概念がわかれており、工場に製品が入った=受領、受領後の検査合格で「納入」となります。自動車業界に多い気がします。受領後検収合格までの間に製品が滅失した場合は、危険負担条項で「製品納入時」より前の滅失となりますから危険負担債務者主義が採用され、売主が製品代金を支払ってもらえないことになります。
➁の場合は、いつの時点で「納入」であるか、納入の定義が問題となります。文理的には「財産の給付行為」が納入なので、製品を工場に入れた時点で納入だろうという考えも取れます。この解釈では、製品を受領してから検収合格までの間に製品が滅失した場合でもすでに納入されていることになるため、その時点で危険が売主から買主に移転し危険負担債権者主義と同じ状況になるため売主側有利となります。反対に、納入とは仕様を満たした製品を納めることなので検査合格時が「納入」だという考えも取れます。この場合は、①と同じ結果になります。
買主に製品を納入した後、売主は製品を物理的にコントロールできないことから➁の定め(受領時=納入時と解する)が納得できる定めになりようですが、①の定めがとられることも往々にしてあります。
根拠としては、上記の➁を採用すると、実は不合格品であるのに納入後製品が滅失した場合に買主が負担を強いられること、検収して合格するまでは製品として購入対象であるか不確定=民法上の特定がなされていないような状態であること、などでしょうかね。
売主側としては基本的には買主に従い①の規定を認めつつも、バーターとして「じゃあ検収期限を設けてよ」と交渉できそうですね。

賠償責任制限条項

賠償制限責任条項についてはコチラ↓

賠償責任制限条項のあり方

貸与品や支給品関連

・機材を貸与する側は、社内での資産管理のため貸与された基材について帳票を作成・提出されることを定めておくと、棚卸が楽になります。
・支給品については、「甲乙協議のうえ別途条件を定める」と規定されているのに何も定められずに支給されている場合があります…
支給品の取り扱いが生じる場合は、モノとカネに直結する内容ですから、支給品の有償・無償の区別、所有権の移転時期、支給品を用いた仕掛品の所有権帰属、支給品が不合格品であった場合の取り扱い等、詳細に定める必要があります。
買主から契約書で内容を定めたくないなど主張される場合もありますので、売主側としては、支給品の取り扱いがある場合のフォームを定めて置き、営業を通じてこちらからメール・現物で「支給品に関する覚書」の自社ひな型を提供できるようにしておくこともひとつの手段です。
特に、売主(製造委託の受託者)が下請事業者である場合は、有償支給にかかる相殺時期が厳しく制限されますから支給品の取決めをうやむやにしない姿勢が求められます。
・また、起工した金型の貸与や保管条件について、金型の取り扱いがあれば必ず、必ず基本契約中に金型の条項を入れるか、別途覚書を締結してください。金型自体も資産価値が高いものですし、金型は製品情報の宝庫です。自社が金型起工を依頼するメーカー側である場合は特に注意してください。金型は継続的に利用しメンテナンスも伴うことから保管費やメンテナンス費がかかります。メーカーは、話題に出すと費用を持たざるを得ないのでうやむやにするため起工費のみ取り決めてあとは契約書もなしに放置なんてザラです。しかし、金型自体のリバースエンジニアリング、設計図の無断流用は不正競争防止法で保護がかけられていますが、金型の無断利用は契約で縛らないと縛りようがありません。メーカーと下請の共同開発案件においては「両社平等だから」という理由で、金型の所有権のみ共有にして管理を定めない場合も往々にしてあります。この場合、金型はあくまでも共有物ですので相手方の金型利用を禁止することが困難になります。もし、金型から作られる製品が特許等で保護されておらず金型の目的外利用を制限する条項がなければ、下請がライバル他社からの発注を受けて同じ金型から同じ製品を作ったり、当該金型から製品の情報が洩れるなんてこともあります。ですので、製品情報を守るために必ず目的外利用を禁止する条項をいれてください。
金型についての関連記事はコチラ↓

金型の保管と下請法【法務がどう取り組むか】

品質や輸出入、化学物質規制関連

品質保証体制を求められたり、輸出入管理や化学物質規制の順守等に厳しい体制構築が求められていたり、書面の作成保管義務が課されることもあります。
基本的に買主の意向に従わざるを得ない場合も多いですが、実務担当者に対応できるであるか確認しましょう。対応できていないと形式的には契約義務違反となります。何か問題が起こった時に責任追及されかねないスキを作らないようにしましょう。
昨今では、このような規制だけでなく、人権や労働者保護を遵守しているかの条項もよく見られます。
大手メーカーであればサプライヤーに対して自社のガイドラインを守らせるためこうした条項が置かれがちですが、取引相手が中小企業者や零細企業の場合、到底守れない条件であることが多いです。
ですので、自社が守らされる側で守れない条件があれば締結時に素直に申し出るべきです。「正直守れません」→「形だけでよいので置かせてください。そうでなければ取引できません」的なメール履歴が残っているだけでも中小零細にとっては防御となります。

契約不適合関連

基本的には自社で製造した製品は自社で責任を持とうよといいたいところですが、責任を持つ期限が不明瞭であったり、無期限とされる場合は話が変わってきます。
自社が原料メーカーや子部品のメーカーである場合、最終製品の想定保証期間まで責任を負わされる条件は要注意です。
契約不適合責任による追完請求は作り手の帰責性を問わない無過失責任であり、簡易迅速に製品不良を解決するために期限が設けられています。
契約不適合責任条項中で長期・無期限な期間を設けられると、無条件でその期間追完させられかねません。
特に、1項に期限を定めた契約不適合責任、2項に前項において売主の帰責性がある場合は期間経過後も契約不適合責任の請求ができると規定する場合も多いです。
この場合、2項だけ取り上げると「帰責性がある場合」=責任を負うとなるので、債務不履行責任と同様におかしく見えないかもしれません。けれども、通常の債務不履行では損害賠償を求めることがベースにあり、明文で追完請求が認められているわけではありません。よって、2項で追完請求の期間が広げられている分不利といえます。
部品メーカーである場合、製品サイクルが短いものであれば長期・無期限な追完は事実上不可能になるため、こうした細かな条件にも気を配る必要があります。また、化学や繊維、鉄、非鉄などの原料メーカーは製品に不良があった場合、物を修理することは不可能ですから、代替品を納入することとなります。条項内で機械的に、「修補、代替品の引き渡し・・・」と規定されている場合は、必ず「修補」を削りましょう。相手方もそれはわかっているでしょうが、形式的に当てはまらない場合は実態に合わせて削除しよう。

在庫関連

自動車業界や家電業界では、下請側にメーカーの製品が廃盤になった後も保守部品の供給を義務付ける条項が置かれることがあります。
製品の廃盤が決定された場合は、廃盤した製品に使われる子部品も同じく需要がなくなり廃盤になるわけですから下請側としては同部品に関してこれ以上負担したくありません。ですので、廃盤する製品に使われる部品はまとまった量を製造し、一括してメーカーに購入・引き取ってもらう条件にすることを検討したり、使用していた金型の返却や処分について協議すべきです。ただし、こうした事象はビジネスありきなので営業間ですでに具体的な計画が合意されている場合がほとんどかと。契約書をいくら修正したり、法務から提言してもビジネスとして許容される可能性は低いことが現状です。
よって、取引開始や部品の案件が出た段階から法務に話をもらって、計画段階から廃盤後の製造には責任が持てないことや、責任をもって製造するにしろ価格個アップ交渉をしてもらう等の対策を練ることが必要です。

契約交渉

意識すべきポイント

さてやっと契約交渉ですが、意識をするポイントとして社内外の登場人物は誰かという点があげられます。
以下の図をご覧ください。

基本的には、社内営業⇒先方営業と営業同士のやり取り⇒先方営業と先方法務のやり取り、の流れになるため契約書訂正についても間接的な交渉となります。
この契約交渉を単なる「契約書」の修正、文字のお仕事と考えるとただの代書屋さんになってしまうため、各登場人物とのかかわり方がポイントとになるわけです。

社内の関係

営業担当者とは、先方営業とのやり取りを行います。法務のあなたはそれを見越した契約書チェックの返信ができていますか。
単に修正したファイルを送信するだけでは、社内営業担当者は先方への返信に困惑します。
理由もつけずに「この条項は飲めません」と返事できないことは容易に想像できるでしょう。
よって、原則、修正理由やコメントを付けて、どこをどんな理由で修正したのか担当者がわかるように情報を共有しましょう。ファイル内に修正理由をコメントしているのであればその旨伝えましょう。
レベルの高い営業担当者は「契約書のここを修正されていますが、理由は何ですか?」と聞き、交渉の事前準備を行います。しかし、皆がそうではないので法務から親切な返答を心がけることが事業部門に寄り添った回答となります。

例えば以下のような回答文。

○○様

お疲れ様です。

ご依頼いただいた△△向け取引基本契約書について、別添のとおり修正しました。
修正理由はファイル内に記入しておりますが以下の通りとなります。
先方担当者へのご返信にそのままコピペしてお使いいただいても問題ございません。

====================キリトリ====================
■修正理由
・14条2項[削除]
⇒理由は……

・23条[修正]
⇒理由は……
====================ココマデ====================

修正理由にありのままを記入することはお勧めしません。営業担当者が間違って先方営業にその内容を送ってしまうこともあるためです。
また、修正した条項を先方が拒否した場合は、再度社内営業担当は「先方から修正されてきました」と法務であるあなたに伺うこととなります。
けれどもスムーズに契約交渉を行うならば譲歩できる点があれば、あらかじめ示してあげたほうが良いです。
例えば、「修正として記載していますが、先方がこの部分の修正を拒否した場合は、先方案でも構いません」と記載すると、他の部分に争いがなければ社内担当とあなたのやり取りが1回で済む可能性があります。
ただし、案件について事前の聞き取りを行う際に営業担当者の人柄をよく観察しましょう。譲歩しても良いと記載すると早く契約締結したい営業担当者は「じゃあもうここはいいや」と端から交渉をあきらめることもあるためです。

ここまで丁寧にする必要があるか?冗長ではないか?と思われるかもしれませんが、そこは皆さんの社内風土もあるので、自分の会社の雰囲気で調整してくださいね。
大切なことは「自社の依頼部門」が求めている回答になっているかどうかです。

社外との関係

先ほどの修正理由で記載した通り、仮に修正理由を付けないと先方営業が修正理由のない契約書修正を先方法務に投げることになります。
その場合、先方社内で修正理由は何かやり取りがなされ、そのまま自社の営業担当者に、そしてあなたに「修正理由は何ですか」と返ってきます。
こうしたやり取りは本当に無駄だし、沢山の人を不快にするやり取りであり、製造でよく言われる「後工程を考えない仕事」です。まっとうな契約書の修正であってもすんなり通らない原因となってしまいます。

また、修正理由を付けて契約書修正した場合でも相手方の企業パワーが強い場合は、営業間のやり取りで決着がつくことがほとんどです。
場合によっては、パワーで押し切ろうと、相手方営業が相手方法務に契約書の修正を回さないことすらあり得ます。
ですので、少しでも相手方営業が相手方法務に契約書を回すようにするため、契約書修正はできるだけ端的かつ法令に根差した記載にすることをおススメします。

理想的なやり取りは法令と取引実務を反映したやり取りです。
法律の原則論⇒貴社ひな型や修正ではこうなっている⇒この点は法令に悖る部分であり、取引上(価格面等)も譲渡しているのでやりすぎではないか⇒修正していただけないですか?といった感じ。

修正理由に法令を示すことで先方営業担当者に「めんどくさいから法務に回そう」と思わせることもできるので、先方法務へきちんと修正文が回覧されやすくなります。
ただし、無理やり理由を付けることはNGであることに加え、「法令ではこうだから」という理由は何の修正理由にもならないことを強調しておきます。
あくまでも、原則と例外という方向性を示したり、お互いで認識があやふやな場面や解釈が分かれる場合の指針として法令を使ってください。
民法商法通りに修正するのであれば、そもそも契約書自体必要性がありませんし、他の条項でなぜ民法商法通りにしないのか疑問を与えてしまいますので。

少し横道にそれますが「民法ではこうなので、こう修正してくれ」的なコメントが頻発した時期に、「承知しました。であればすべての条項を民法商法の原則通りに修正してください。」とコメントしたことがありますね笑
私見ですが、「法令ではこうなので」という修正理由は、「他社にもこの内容で締結しているため」と同じくらい意味不明な理由ですね。

先方との直接交渉と落としどころについて

契約交渉がもつれにもつれた場合、自社営業に、「法務も一緒に説明してくれませんか」と商談の中に入るように依頼がされる場合があります。
指摘には法務として信頼されている証かと思っています。まともな営業さんなら営業同士の交渉の場に部外者を入れたくはないでしょうし、法務のレベルが低ければ人前に出したくないでしょうから。
この場合は、相手が自社よりパワーの大きな企業であったり、交渉力が強い立場です。
先方営業を納得させるためにタッグで説明する必要があります。その場合は、実務と密に連携できるチャンスです。
価格面や物流面、人材や設備導入面で自社に有利になりそうな交渉情報を仕入れてください。当然かもしれませんが、前もって打ち合わせて、交渉の司会進行や説明するポイントの割り振りなどしっかり決めて望んでください。
先方営業が法務の同席を認めている時点で、効く耳を持っています。納得できる理由なら適切に先方法務に修正する方向で話を挙げることでしょう。
ただし、安易に商談に同席させる社内営業は社内の他社に仕事を丸投げる人かもしれないので要警戒です。

先方法務との直接法務と直接のやり取りが生じる場合、主に法令判例の応酬といった実務を無視した空中戦になりがちですし、互いの営業担当者からやり取りを白い眼で見られることとなります(メールのccにも入っているでしょうし…)。
このケースで丸く収まっている状況をあまり見たことがないです。結局、どちらかが自己の営業担当者に怒られてなし崩し的に契約書が決まります。
「内容が難しいので先方と直接連絡してくれませんか?」といってくる営業担当者がいますが、安易に受けないほうが良いです。問題点は2つ。
まず、営業担当者として契約内容の法的解釈まで理解する必要はありませんが、どんな内容か概要は把握すべきですし、その姿勢が見えない営業は必ず取引内容の取決めもいい加減です。十中八九問題を起こす取引をしています。
もう一つは、前述の通り結局うまくまとまらないことが多く、パワーの勝負でどちらかのひな型にきまる+営業担当から法務が怒られることになるからです。

文面を見ることをやめて改めて取引の事案を見ることで見えてくるものもあります。
結局は、そこを修正しなければ取引上の支障が出るのか否かにつきるんです。
実務が置いてけぼりになることもありますので、文言上はリスクのある文面でも、実務的に問題がなければ折れることも必要です。

これは社内での事案確認が事前にできていないために生じる例ですが、貸与品のやり取りが発生しない取引であるにもかかわらず、当該条項について契約書の修正がまとまらないなど、適用がない条項であればあっさり認めたり削除する方が賢明です。

もちろん、基本契約なので今後の取引で貸与品のやり取りが発生する場合もあります。よって、削除した場合は、発生時に改めて取り決めることを徹底するほかありません。いざやり取りが発生した場合に担当者が変わっていたり法務に話が回ってこずに先方有利な規定ベースで話が進むリスクはありますが…
この点、DX等で契約書保管の際に備考欄に記載したりアラートが出るようにするなど、少しでもリスクを減らしつつ、譲歩して契約交渉をまとめる方法をとるか、頑として譲らないか…
最的には企業パワーの殴り合いと営業判断になるんでしょうがね…

また、譲歩せざるを得ない場合あっても先方のニーズを一部受け入れたうえ、代替案を提供してください。例えば「ここは折れるからここは譲ってよ」的な感じで。
重要なことは、この主張をするためには関連する条項間で交渉する必要があること。
前述の危険負担と所有権の部分にも記載した方法ですが、危険の移転時期や所有権の移転時期を検収合格時までずらす場合⇒売主不利な規定でもOKなのでせめて売主側でコントロールできない期間を減らしてくれよ⇒検収期限を設けさせてくださいみたいな感じ。
条項間で重要度合いに軽重がある中、1つ認めるから1つ認めろと量的主張になっても意味がないので、このように関連付けた交渉ができるとよいです。
まぁ、こうした内容をぶつけてもパワーで押し切られるときはママありますので落ち込まないように…

先方ひな型や修正に問題がない場合

番外編として先方ひな型や修正に問題がない場合、担当者へのメール返信をどうしていますか?
契約内容に修正すべきほどの問題がなくとも、留意すべき点は必ずといっていいほどあると思います。
ですので、私は「契約締結可」であること、「留意点があること」を分けて明記することが多いです。
留意点の身を伝えると、結局その内容で締結していいのかダメなのか判断がつかないので締結可であることは必ず併記します。
例えば以下の通り。

○○様

お疲れ様です。

ご依頼いただいた△△向け契約書について、中途解約時の定め等適切に定められているため【契約締結可】です。締結をお進めください。ただし、以下の点にはご留意ください。

■留意点
・15条
⇒倉庫の保管管理者が変更となる場合、先方に通知する必要があります。担当者変更の際には必ずお手続きください。

これも冗長かもしれませんが…。契約書修正って黒か白ではなく非常にグラデーションに富んでいます。修正は必要ない=「問題ありません」連呼で済ませるのではなく、鬱陶しいと思われても注意すべき点は頭の中に入れてもらうことが必要です。
また、問題ありませんを連呼しないことで、「本当にこいつ内容見てるんか?仕事してるんか?」感を払拭することができる副次的効果もあります笑

最後に

契約書チェックは日々のルーティン業務になったり、基準を設け難いがゆえに適当にしようと思えばとことん手を抜くことができます。
しかし、ここに法務のつまらなさを覚えてしまってはもったいない。
法務関連業務でも一番法務たらしめている業務、最も事業部門と接点を持ちやすい業務でもあります。ビジネスサイドに寄り添うかどうか工夫一つで大きく効果が変わります。
契約締結一連の流れで、「この人はできる人だな」と営業から思ってもらえるかもしれませんし、社外との関係を規律するだけでなく、社内への仕事なんですよ。

法務部門が文言に固執して契約書が進まないのは言語道断です。ただし、間接部門として事業部門の統制を行うのも法務の大事な役割。
「ビジネス再度に寄り添った仕事をすること」が大切といわれていますが、その塩梅は難しいですし、正解はありません。
そんな中、我々ができることは、統制部門としてしっかりした基準を設けること。基準を設けたうえで柔軟に動いてノウハウを蓄積することです。場当たり的な対応になることもあるかもしれませんが、何度も事業部門とぶつかったり反省して、基準をブラッシュアップする。永遠にその繰り返しです。
繰り返しの中で自社に最適な寄り添い方を覚えてください。寄り添う姿勢を忘れないでください。

といったところで本日はこれにて終了です。
無駄に長くなってしまいましたが最後までお付き合いいただきありがとうございました。

それではよいゴールデンウィークを!