法務にとって大切な心構え~当たり前のことをコツコツと【新任法務向け】

企業法務

前回の投稿から開きすぎてしまいました…
5月末から6月にかけての総会準備から駆け足どころか五輪選手並みのダッシュで駆け抜けた感じです。
そういっている暇にお盆前も過ぎてもう年の瀬が近くなってきました。

この一年間法務として成長があっただろうかとセンチメンタルになった日常はあっという間に過ぎていきました。
というのも、会社の人事制度が変わり厳密な評価や年功序列を崩した給与制度に変更されるなど、自分の能力を省みざるを得なかったからです。

自分が法務として会社の役に立てているか、転職の末にたどり着いたこの場所で惰性に流されていないか、転職しても通用する人材なのか。
能力の棚卸をしても内から自分の良さを見つけるのは難しい。

また、7月28日に開かれたBusiness Lawyer(弁護士ドットコム)主催の「法務組織とキャリア」セミナーも私の精神衛生にはあまりよくなかった。
当時、法務界隈で関連するツイートも多く見ましたし、もう何回も擦られた話題ですが「インハウスと無資格法務」の違いについて語られ、就職に関していわゆる大手ほどスキルを持った資格者採用にシフトいるといった内容を聞いて、無資格法務の私としては少し落ち込みました。
こんな感じで、自分の能力や転職市場での価値についてコンプレックスを抱いたり、先の進路について不安を抱えている無資格法務の方も多いのではないでしょうか。

ただ、そうした中で振り返ると、(法務として上司から褒められたかはともかく)事業部門の方から「ありがとう」をたくさんもらった一年だったなと思い出し、少し気持ちが上向きになりました。
別に落ち込む必要ないやと、自分の仕事は案外間違っていなかったのかもなと思えてきたので、本日は自分の備忘もかねて、特に新入社員で無資格法務の方向けに、おじさんの小言的な法務の心構えを書き連ねたいと思います。
最後までお付き合いください。

法務のコンビニ化~でも大切なことは…

今から述べること、特に事業部門に対する考え方については、人によっては180°意見が違う場合もあるので身勝手な私見だということをここで強調しておきますね。

ということで、話を進めますが、近年は企業内弁護士(インハウス)を置くことも珍しくなくなってきましたが、法務部は主に成熟した会社に設けられ、数ある会社部門の中でも最後に作られる贅沢部門といっても過言ではありません。
というのも、法務部って主に問題に対する予防のため、総務部から文書管理や契約書管理が切り離されたことに端を発するものであり、法務部でなければできない業務はなかったわけです。
実際に「法務部」がなくても会社では何かしらの「予防」は行われていますからね。そこに大々的に人を割くなんて何とも贅沢なことだと。
しかし、グルーバル対応やグループ会社の管理、コンプライアンスや個人情報の保護といった日常的に遵守・統制すべき内容が増えた現在、それらの役割を法務部が取り込むケースも多く、いわばコンビニのような業務過多の状態になっています。
うちの法務部の仕事とよその法務部の仕事はまるで違うといったことも生じ、こんな現状から、「攻めの法務」・「守りの法務」はたまた「鳥の目」「虫の目」「魚の目」法務なんて言われて法務の役割や業務がカテゴライズされることもあるわけです。

雑誌やネット記事でも「攻めや守りにとらわれず~」・「経営者に寄り添ったパートナーとしての~」などめちゃくちゃ意識高いことが書かれていますが、私個人としては、新任で社会人経験や、その会社での経験が薄い間は、あまり手を伸ばさない。事業部門とのかかわり、特に契約業務や法律相談などで以下述べる「無駄のないプレゼントをする」という心構えで業務に臨めばいいと考えています。
法務の一番のステークホルダーは事業部の皆さんです。彼らの信頼なくしては何をやっても「攻めた気になっている法務」・「守った気になっている法務」になってしまって誰も幸せになりません。だから日々彼らとの接点で信頼を積み上げていく必要があるんです。



攻めや守りなんて忘れて、目の前の相談してきた「人」に対して一生懸命になれってことです。かくいう私も何が攻めで守りかわかってませんから笑
何も難しいことではありません。ただただ謙虚になって相手を思いやる。それだけです。

日々いろんな法務の方から愚痴を受けますが、法務がコストセンターである事実は揺るぎありません。
(もちろん私もイライラしますし怒ることはありますがこの前提意識は持ち続けています。)
事業部門の方が稼いでくれるから生活ができていますし、会社が存続しています。
営業や製造の人間が1か月いなければ会社は潰れますが、法務が1か月いなくても会社は潰れません。ですから、「卵が先か鶏が先か」ではなく事業部門が切り開いてきた歴史が会社の歴史なんです。
卑屈になる必要はありませんが、法務部はそんな事業部門へのサービスを行う部門であるという意識を欠いてはいけません。

無駄のないプレゼントをする

さて本題に入りますが、そんな事業部門に対して私が心がけている「無駄のないプレゼント」とはなにか。
別に笑顔でこびへつらったり、仲良く世間話ができるとかそういうのではありません。

私の考える「無駄のないプレゼント」とは、「無駄を省くこと」と「+αのプレゼントすること」です。

事業部門から契約書のチェックや法律相談がくると思いますが、知らず知らずのうちに無駄なコミュニケーションをしちゃってる人多いと思います。

無駄を省く

以下ツイッターで見つけた こんどう|爆速リーマン(@kondo_bakusoku)さんのツイートがまさに私の言いたいことそのものだったので引用させていただきます。

法学を学んだ人なら、日常生じる問題について相談されたとき、適法か違法かズバッと断言できないる人なんていないんじゃないかと思います。
相談してきた人が、正確な情報を余すとこなく伝えている保証なんてないんです。
事実認定、評価を挟むことから、数学のように1+1=2と簡単に言えないのが法務のお仕事です。
そんな中、一定の答えは出さなきゃいけない。
苦悩の結果、上記のツイートのように、極力正確な答えを出したくて「○○とは△△のことですか?それとも□□のことですか?」と事業部門に聞き返してしまう。

とにかく真面目で優秀な法務なんだと思います。
でもお客様からしたら、相談内容が何条のどの文言に該当するかなんてどうでもいいんです。
「早く答えが知りたい」これがニーズです。

であれば、法務としてできる貢献は、事業部門の方がわざわざ返信したり、調べる工数を減らすことですよね。

こうした小さな出来事がお客にイライラを生んで「なんかスッといかないな」となって、最終的には情報をもらえなくなる。
自分が逆の立場でもそう思います。

「いやだって、これが法務の仕事だから」と思っても、経理だって人事だって正確な情報をもらうことが大事なのは変わりないですからね、情報のもらい方を工夫しなければなりません。

もちろん、上記のようにパターン分けして書くと文面は長くなります。
ですが、その際は条文の引用や、事実の引用は最小限にとどめ、最大限に短い文章でパターン分けして返信することが大切かと思います。

法務の方で顧問弁護士に出した相談メールの返信に対して「なげぇな」と思ったことありませんか。
その感覚、大切だと思うんです。事業部門に出すメールも初見はそう思われているかもしれんぞって。
(誤解を解いておきますが、我々が返信が長くなるような質問をしているから弁護士先生が懇切丁寧に返信しているわけですし、質問に対して法令の根拠や判例、事例から見た先生の見解等が記載されるので長くなって当然なです。)

結局これも、事業部門をお客様だと思って、何を求めているのか少し考えればわかることです。
でも、仕事で手一杯なとき、わざと相手とメールのラリーをすることで振られた契約書チェックから逃げることありません?(私だけ?)
やったこともありますが、事業部の人を不快にさせるだけなので絶対にやらないほうがいいです。
ダラダラ仕事をしていると無自覚にやってしまうこともあるので定期的に自問して立ち返る必要があります。

+αのプレゼント

先ほどの無駄を省くことにも通ずるものですが、要は相手の求めているものをこちらから提示するということです。

例えば、以下のメール(架空)をご覧ください。

あなたが法務部「田中」さんだとして、メールに添付されている契約書の中身をチェックして木下さんに返信することは必要最低限の仕事です。

でも、木下さんからのメールの履歴を見ると、木下さんは取引先から契約書の確認と契約書に貼るべき「印紙の値段」を聞かれてるんです。
印紙については、もしかしたら木下さんがあなたに聞き忘れたのかもしれないし、既に経理に聞いたかもしれない。それはわからないけど答えられて怒る人はいないと思います。

ですからこうしたポイントを+αのプレゼントとして、契約書チェックの結果を返信する際に答えてあげるんです。「なお、印紙の件はこうですよ」と。
契約書の確認に時間が必要なら先に電話で教えてあげてもいい。
(会社によりますが)なんなら、あなたから木下さんに教えてあげたうえで、印紙を用意してあげてもいいんです。

コミュニケーションがスムーズなだけでなく、自分が忘れていたことをフォローしてくれる、思っていたよりもひとつ上のクオリティで仕事をしているなと思われますよ。
結果、この人とやり取りするとスムーズだ、という考えが芽生え、他の営業にも相談するなら「○○さんが良いよ」って広めてくれます。

事業部門にばかり目が行っていますが、部内や上司や同僚との関係もそうです。
上司から部門間会議で会場設営をまかせられたら、自部門の資料作成と当日の議事録作成も自ら買って出るとか。
相手からの依頼に対して、何か一つでもいいから提案する。
つまり、これを行っていると少なからず相手の期待を超えていることになるんです。
特に難しいことではありませんし、別に協力不要と断られればそれでよし。
こいつは期待できるな、まだ余力があるなと思わせると「あなただからできる相談」をもらう回数が必ず増えますよ。

最後に

以上述べた、無駄のないプレゼントは、社会人として当然のことじゃないかと思われるかもしれません。でも、こういった信頼の積み重ね、ひいては情報収集できるようになることが一番大事じゃないんですかね。
営業と違ってお金も稼がないし、現場と違って物も作らない。
であれば、最低限快適なコミュニケーションを築いて、制度や仕組みをブラッシュアップするのはそこからですよ。(又は並行して)。
むしろこうした草の根的な仕事が、のちに法務から改革を提案する際に反発も少なく、貢献したと認められやすい土壌を育みます。

私がしている心構えなんて所詮こんなもんです。
でも、ジャブがうまいボクサーのように、法務として光る土台がある人間になって戦い続けたいと切に思う。
別にインハウスの人でも当たり前のようにやっていると思うのでこれで差が出るわけでもなく、何かしなければならない焦燥感に駆られますが……
皆さんの期待を裏切り4連休を楽しんでいるので難しいこと考えずにもう寝ます。

更新頻度は恐ろしく低くなっていますが今後とも見守ってください。
最後までお読みいただきありがとうございました。