【法務の役割・機能】法務に何が求められているか。あなたに何が求められているか。

企業法務

本記事は「裏 法務系 Advent Calendar 2022」のエントリー記事です。
表はコチラ
幹事のkanekoさん、毎年おとりまとめありがとうございます!
おけいさんから渡されたバトンを落とさないようしかっり次につないでいきます!

はじめに

WordPressでの記事の書き方も忘れてしまっているほど久々の投稿
知識の習熟や学習から程遠い日々を過ごしておりました。
複数の会社を経験してやっとまともな会社に入ったことで、業務負荷も少なく公私ともに自由な時間も確保でき、同僚にも恵まれました。
「最近オートマ運転になってきてるな~」と緩む気持ちとふとした瞬間(主にTwitterを見たとき)にいつから向上心を忘れたのだろうか、と惨めな気持ちになりしどろもどろです。
初心に戻って自分を振り返ろうと思いつつ、行動制限も緩和され飲み会へ。

こんな状態で酔ってるときにTwitterを見たのが良くなかった。
12月といえばアドベントカレンダーですよ。存在は知っていましたよ。
でも、毎年ビビッてエントリーなんてとてもできなかった。
だってラスボスクラスの人間がゴロゴロいる中にエントリーできますか?
…………
勢いでエントリーしちゃったんですよね。
というわけで恐れつつ開始する私の初エントリー。
最後までお付き合いください。

法務に求められる機能

企業法務に求められる機能を考える際に参考になるのが、経産省の「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」で公表されている「法務機能実装の方向性のストーリー(案)」ではないでしょうか。
ここでは、企業における法務機能が以下の通り示されています。

企業における法務機能とは、「社内外の関係者との対話を通じて、法令や契約のみならず、社会的評価等も意識した調整を行い、健全で持続的な価値を共創する機能」。

そして、このような機能は、具体的にクリエーション機能、ナビゲーション機能、ガーディアン機能に分解されます。

①クリエーション機能
枠を広げる機能:今の法令、契約等のルールを踏まえて、グレー領域に踏み込むロジックを作ったり、ルール自体を変える。

➁ナビゲーション機能
枠内での最大化を図る機能:事業と経営に寄り添って、リスク分析や選択肢の提示などを通じて、積極的に戦略を提案する。

③ガーディアン機能
枠外をさせない機能:違反行為の防止、万一の場合の対処などにより、価値の既存を防止する。

経営とのコミュニケーションをとって、①~③のバランスをとって価値創造を果たすことが法務機能の理想像とされています。

………

とはいうものの、私の中で今一つしっくりきません。
説明の中では①~③の流れで進むような書き方がされていますが、いかんせん入社したてや新人の頃はまず初歩の初歩、形式的な業務に割り振られることがあり、その多くは契約書業務を行うのではないでしょうか。

そではまず、リスクの洗い出しが行われることから、主に③ガーディアン機能的な側面で仕事をすることになります。
どちらかといえば営業にめんどくさいことを言う立場になりますし、リスク回避のいい提案もできません。実務経験も少なく社内の組織関係や人間関係も把握できていません。
よって、営業担当者とぶつかることもあるかと思いますし、なんでわかってくれねーのかなーと思うこともしばしば。
法務を嫌う営業の方が思う法務像も、主に注意してくる、社内規定との整合性や手続面で口うるさくいってくるなど、「ガーディアン機能」に関することがメインかと思います。
口うるさくリスクリスクいうことは上記のガーディアン機能と少し異なる気もするし、いざというときに助けるのがガーディアン機能の神髄かとも思うのですが、法務の機能を表す「アクセルとブレーキ」という言葉もあるように、このガーディアンもブレーキ同様に「違法です」「やめてください」と抑制的になりがちです。
しかも、「ガーディアン」ですよ。遊戯王の「ゲートガーディアン」以外に聞いたことないですよ。こういうとこからも少し上から目線な気がするんですよね。


実際、契約業務や社内の法律相談など、法務の仕事の入口になりやすい業務をルーティン・オートマ運転(手を抜いて)でこなしていれば誤解した意味でガーディアン機能に特化した業務に陥りがちなのも事実かと思います。

冒頭の問いについて

私が法務駆け出しのころ、ビジネス法務や、Business Lawyerで記事を読み漁り、「法務とは何か」考察してみたり、ツイッターで諸先輩の投稿を見て意識高く行動していました。
また、ちょうど働きだした後にこうした法務の行動指針的なものが示されたので、前出①~③を意識しつつ業務をしようと誓った記憶があります。
やっぱり、法務に対する憧れや、すごい職種なんだという意識があったんで少し背伸びをしていたんですね。(加えて司法試験に受からなかった焦りもあった…)
ただ、ここで問題なのが、初めからクリエーション、ナビゲーションができるのかということ。
少なくとも私は、能力もなければカリスマもない、キャリアもない、組織に馴染んでもいないのに、クリエーションやナビゲーションしようと空回り、できる仕事はといえば、ルールに則った形式的な契約審査や、案件へのジャッジ。
一人法務ということもあり、道を修正できなかったということもあったのですが、正直なところ法務に向いてないのかな、つまらんなという思いも出てきました。

別途給与面での不満もあり超短期間で転職し、2社目に拾ってもらった上司の元で相変わらず空回りしていたところ、「法務法務というが、社内では他の職種と変わらない一部門。大事なのはあなたがこの会社に何を求められているかだよ。法務として何が求められるかは正直あまり重要じゃない。」という趣旨の言葉をもらって我に返りました。

最近もツイッターで似たような趣旨の投稿がされていましたね。

上司の言葉を機に、「私に何が求められているか」を考えて業務に励みました。
まぁいろいろあって2社目ともサヨナラして、ある程度の成功体験も積んだあと、私が思う、「私に求められていること」は、単に会社に求められていただけでなく、「法務に求められるもの」にも通ずるのではないかと思い、逆輸入を試みたのが今回の投稿となります。

前置きが非常に長くなりましたが、私が思う「法務に求められていること」法務に求められる機能とは

「納得させること」

だと思います。
「は?」と思ったそこのあなた、もう少し見てってくださいな。
「今年の漢字」ではないですが、短く表せば表すほど物事の本質が見えてくるものです。

納得させるということ

社内に目を向けると、皆さんは日々業務で上司や部下、事業部門、コーポレート部門の担当者や上司から相談を受けたり、はたまた経営陣とも関わるかと思います。

法務は、相談対応するにしても提案を行うにしてもリスクを提示するにしても、「正確で根拠のあるリサーチ」をして、「わかり良い端的な説明」を行い、上記ステークホルダーに説明して納得してもらいますよね。
このように法務は「納得してもらう」ことによって仕事を進めていきます。
(させる、というかしてもらう、ですね…)


そして、人が納得するためには、説明+腹落ちだが必要です。(腹落ちも「納得」かもしれませんが…)

法的三段論法や、正確な法文・判例の読み込み、信頼されたソースからの情報収集で鍛えられる能力、客観的な事実で端的に記載する能力などは、積極的に身に着けていくべきですし、真剣に業務に臨んでいれば多少なりとも身についていくでしょう。
こうして人に説明する力に法務の人は長けているし、まさにこれが事業部門に対して、クリエーション、ナビゲーション、ガーディアンを果たす場面で求められているのではないでしょうか。
法務の方は当たり前だと思われるかもしれませんが、説明力は案外特異な能力なんです。
(それこそ他部門から相談を受けた際に説明力の差は如実にわかりますよね?)

ただし、内容を理解できても納得しない人もいます。
人は感情で動きますから、納腹落ちさせるためには「何か」が足りません。

少し経産省の説明に戻りますが、法務が機能を発揮するための手段には以下が必要だと述べられています。

「法的視点からの創造」とは、社の内外の関係者(ステークホルダー)との関係を構築・整理することであり、そのためには積極的に信頼を勝ち取ることが必要。
・社内各位と積極的に対話し、可能性を模索
・時に社外とも直接対話し、自社の考えを議論

この「積極的に対話」「可能性を模索」して得るものがその「何か」、すなわち「信頼」なのではないでしょうか。

信頼のある人の説明、提案。
正確な情報や根拠も担保されている。
こうなればその船に身を預けてもよい、となるのではないでしょうか。

大きなプロジェクトで対話を行う、可能性を模索することはことはもちろんですが、日々めんどくさいドブさらいのような仕事をすることも信頼感獲得には必要なのではないかと思います。
ツイッターで流れてくる法務関連のツイートで、社内手続面の愚痴など、どうして私がこんなことせにゃならん、規定をちゃんと読んでくれよ…といった類の愚痴をよく見ます。
こうした業務は個人的に恩を売って「信頼」を獲得する地道且つ最短のルートとして非常に重要なのではないかと。

無資格法務の私にとっては、社内でめんどくさいことを請け負って信頼を得る、そしていざという案件が発生した際は納得して案件を進めてもらうことが、弁護士と唯一差別化できる仕事なんですね。
法的な見解がほしければ外部の弁護士に委託すればいいので、何の資格も保障されていない私を頼る必要はないですから。
じゃあ、社内弁護士とどうやって差別化するのかといわれれば、社内弁護士がいないレベルの企業なんでわかりません笑

ただ、めんどくさいことも何でもやる人ばかりなら、ツイッター上でヤバイ法務の愚痴・悪口はあまり出てこない気がするんですよね笑
割と「法務」の特別視、それに由来する業務の選択、「やりたくない、すべきでない」を気軽に言えてしまう人も少なくないのではないかと。
しかも説明できる力はあるから、やらない理由を説得的に論じれてしまうんですよね。

もちろん統制上の問題はありますが、自部門の仕事でないかもしれないけど「相手にとって面倒なことを代わってあげる」のは、商売の原点というか大切なことだと思います。

結論

まぁ結局何が言いたかったのかというと、
・法務は社内で「人に納得してもらう役割」を担っていて、納得には説明力と腹落ちが必要。
・「説明力」は、業務の性質や法令を扱う以上多少なりとも身についている。重要なのは腹落ちさせるための「信頼」を得ること。
・「信頼」を得るためにはどぶさらいが必要
ってことです。
ツイッター上のキラキラして見える方も実は全員「どぶさらい」みたいなことをしてきて今の立場にいるのではないかと思います。
(いる会社や法務の人数、法務への周りの理解度によってやる内容は千差万別だと思いますが)

こうした泥臭いことを通じて「納得」してもらい、案件を進める。
「いろいろあったけど助かったわ」と言われる経験は法務をやっていく中で何事にも代え難いものになっているなと。
だから辞めずに法務しているわけだし、中堅法務になった今、改めて自分への戒めも込めて記事にしました。

今後も、信頼の積み重ね、納得してもらうことを通じて実績を積み、評価(昇給)を得ようと、日々業務に励んでいく所存です。
皆さんも、法務に何が求められているか、自分に何が求められているか、今一度振り返ってみるのはいかがでしょうか。

だいぶ「法務に求められること」とは離れてしまったかもしれませんが以上となります。

最後に

私、転職の面接で、あなたの考える法務とは?何を大切にしていますか?的な質問がされるたびに、「納得」というキーワードを使って上記の下りを説明しています。
もちろん正解なんてないですが「納得」ってとても気に入っているワードなんです。
納得しているから安心できるし責任も取れる。自分自身もあきらめもつくし後悔も出ない。

今後転職者の面接をされる諸先輩方、こんな回答をする転職者が現れた際にはどうか多めに見てやってくださいね笑

以上、今回も最後まで稚拙な内容をお読みいただきありがとうございました。

明日、21日の裏 法務系 Advent Calendar 2022は、弁護士/インハウスハブ東京法律事務所の関原秀行先生の投稿です!コチラも必ずチェックしてください!

それではよいお年を!