下請法書面調査の対応方法
とうとう7月に入りましたね。
株主総会が終わりホッとしたのもつかの間、下請法書面調査の提出期限が迫っています。
事業所の担当者、ちゃんと回答してくれるかな…
不安も多いと思います。
書面調査については別の記事で触れましたが、肝心の説明をしていなかったので改めて下請法書面調査について記事にします。
以下、「公正取引委員会」から送付された書面調査について言及します。中小企業庁の方ではないのでお含みおきください。
*「本記事に出てくる条数は下請法の条数を指します。
下請法書面調査とは
いきなり青い封筒が届いて驚いた方もいるのではないでしょうか。
下請法書面調査とは、主に親事業者の下請取引の対象、内容を調査するために公正取引委員会が郵送してくる調査書面による調査をいいまます。
趣旨
下請法の制定趣旨は、下請取引の公正化・下請事業者の利益を保護することです(第1条)。
下請取引を公正化するためには取引内容の把握が必要なので、公正取引委員会は親事業者・下請事業者への書面調査権限を有しています(第9条1項)。本規定に従って行われる調査が下請法書面調査となります。(以下の引用記載の「取引に関する報告をさせ」の部分に該当します)
本調査で下請法違反の疑義が生じればさらに調査するため親事業者の事務所への立ち入り調査が行われる場合があります(調査される可能性が高いです)。
公正取引委員会は、親事業者の下請事業者に対する製造委託等に関する取引(以下単に「取引」という。)を公正ならしめるため必要があると認められるときは、親事業者若しくは下請事業者に対しその取引に関する報告をさせ、又はその職員に親事業者若しくは下請事業者の事務所若しくは事業所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査せることができる。
下請法第9条第1項
というのも下請事業者は親事業者の違反を報告しない傾向にあり、報告したとすれば業界内の横のつながりや、親事業者は下請に出入りすることもあるのであっさりバレるんですね。よって、書面調査を行うことで、親事業者と取引のある共通の下請事業者間で回答に差異・矛盾がないか、親事業者の回答と突き合わせることで違反発見の端緒になるため、公取人って本調査は非常に重要なんです(ここで違反調査件数を稼ぐことができれば公取の実績になるという裏事情もあります。)
もし下請法に違反するような回答をした場合、重箱の隅をつつくような立ち入り調査のきっかけを与えてしまいますので、回答前の事前確認が必須です。
本年度は2020年7月17日(金)が期限となりますが、定められた提出期限までに書面を提出しない場合は、第11条、第12条の規定に基づき50万円以下の罰金が科せられる場合があります。額は大したことがないものの、「罰金」は行政刑罰ですので、自社が今後取引する先方企業の反社審査にひっかかる可能性があること、公取に目を付けられることから決して甘く見てはいけません。また、本罰は個人だけでなく法人にも科せられる両罰規定となっています。
提出書類について
提出が求められる書類は、①回答用紙(表面・裏面)、➁下請事業者名簿となります。送られてくる青色の封筒に入っているほか、以下のURLからダウンロードすることができます。
https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitauke_tetsuduki/chosa.html
回答用紙
回答用紙「第1貴社の概要」は、提出を行う部門(今回は法務部ですね。)が記入します。「第2下請取引の状況」部分は事業所ごとに記入してもらった後、法務部がすべての事業所から提出された回答用紙をまとめて提出します。
細かいことですが、各事業所からの回答で回答作成担当者の記入が漏れることがあるのでちゃんと記入してもらってください(次回調査時に誰に記入をお願いするか実務上確認するのにも必須です)。
また、回答用紙は事業所ごとにきにゅが必要ですが、事業所に複数の部門、例えばビジネス製造部とコンシューマー製造部の2部門がある場合、事業所として必要な記入は1枚ですが、下請取引の実態調査においては法務から2つの部門に回答を依頼し、提出された回答を1つにまとめる作業が必要になることにご留意ください。
前述の通り、下請法違反がある旨の回答を行うと立ち入り調査の口実を与えてしまいますので、事業所から取りまとめた回答はすべて確認して「まずい回答」があれば書き換えて提出しましょう。(ずるい気もしますが、社内的に後に是正し重大な違反なら課徴金免除制度を使えないか検討します。)
下請事業者名簿
事業所ごとに提出しても良いですし、本部で取りまとめて提出することも可能です。また、そもそも自社で管理名簿を作っている場合は公取フォーマットの項目が記載されていれば新たに名簿を作る必要はなく、該名簿を提出すればよいこととなっています。
なお、下請事業者名簿は親事業者が取引する下請事業者が200社以上ある場合は、取引金額上位200位の下請事業者のみ記入することが可能ですが、その場合であっても前述の回答用紙「第1調査期間中に取引のあった下請事業者の数」は「200社」ではなく、実数を記入する必要がある点に注意です。
こんな細かいことにイライラしても仕方がないですが、右上に企業ごとの整理番号を記入する欄があるので忘れずに記入してください。
対応方法
各事業所の回答担当者に回答用紙と下請事業者名簿のフォーマットを添付し、期限を決めて回答依頼メールを出します(フォーマットは前述URLからダウンロード)。
今回は7月17日(金)が期限となりますが、書き換えが必要な場合や事実確認が必要なケースが多々ありますので、1週間以上前に回答期限を定めるのがコツです。
その間、各部門からの「X社とのYの取引が下請取引に該当するか」といった問い合わせがあると思うので回答対応します。違反した取引が明らかになった場合は、回答とは別に対応する必要があるので詳細に聞き取りをし、取り急ぎの対応方法を指示します。
下請事業者名簿については取引先の情報を事業所単位で管理している場合や、経理財務で一括して管理している場合などありますのでしかるべき部門に記入を依頼します。
すべて取りまとめて提出すればお仕事完了です。
望ましい対応のために
用紙の記入だけなので簡単にも思えますが、そううまくいかないのが実務です。
まず、何よりも大切なことが事業所の「誰に回答用紙への記入を依頼するか」です。
調査は年に1回必ず行われるとは限らないので、回答担当者が人事異動によって部門が変わる場合があります。人事異動がシステム上迅速に反映できていない会社であれば、異動を追って新たな担当者にメール、説明するだけでも時間を要してしまいます。
よって、「下請法書面調査担当者リスト」などを作成し、人事異動のたびに担当者の更新を行いましょう。また、システム上人事情報を管理している会社の場合は、人事異動のたびに反映することを徹底してもらってください。
各事業所の下請法に詳しい人を内部監査等から伺ておくこともコツかなと思います。内部監査は各事業所の受発注書面について監査しているはずで、その際のヒアリング担当者は、下請法書面調査でも担当者になる可能性が高いのでスムーズに事が運ぶかと。
次に、事業部門からの下請法該当性の質問が来ないように、下請事業者リストを法務で管理できるようにしておくことも検討に値します。
例えば、新規取引を行う場合には「新規取引申請」等の手続きがあることが通常かと思いますが、承認プロセスで法務を加えてもらい、そこで下請事業者該当性のチェックを行って結果を管理することが望ましい。
法務が介入することができれば、新規業者の下請法適用について判断できるだけでなく、取引基本契約の締結依頼までスムーズに行うことができ、加えて取引内容の聞き取りも1度で済むので。
もちろん、下請取引がなかった既存の取引先と、下請取引が新規発生することもあります。「新規取引ごと」か「新規取引をする会社ごと」に申請手続きを行うかは企業によるかと思いますが、法務が適切なチェックを行うという観点においては全社が適していますね。
最後に、書面調査は毎年行われることもあるので、過去の回答結果や方法をまとめて、イントラネット等に掲載しておきましょう。
今まで下請法について研修を行ったことがない場合は、下請法について研修資料を作成し、理解度テストを行うことをお勧めします。ただし、回答時間をとるため、ごく簡単な内容、回答義務者と任意者に分ける等工夫が必要なこともあるので、そこは自社の空気を読んで設定してください。
(小話ですが、普段受発注を担当する購買担当のおばちゃんに総合職の人が理解度テストの点数で負けてむきになって勉強する等思わぬ効果が生まれます。部署ごとのライバル視が強い企業だと「うちの部門が一番優秀!」と競い合ってくれて勉強がはかどることも!)
法務は人的リソースが乏しいですが、一度研修を行えば来年度もそれをベースに研修活動ができるので来年度以降助かります。年度始まりに「これを確認しておいてください。」とアナウンスして説明の手間を省くこともできますので(効果的か否かは度外視し、少なくとも形式的に毎年指導しているという要件は満たせます。)
できれば、イントラネットに「下請法について」といった項目を設けて公正取引委員会の下請法テキストのデータ、自社の下請法に対する考え方や対応方法についての資料、書面調査の履歴等をあわせてアップしておけば立派なコンテンツとなります。
作業中も自己の下請法に対する理解の整理になりますし思いのほか楽しい作業になりますよ。
法務が行う法令への理解・教育体制の整備には欠かせないことです。仮に研修内容が同じでも、毎年周知すること自体に意味があるのでこれを機に制度を構築していきましょう。
書面調査は必要なのか?に対する私見
回答内容については、不用意なことができないことから結局法務が修正することになるので「これって必要か?」と疑問に思うこともあるかと思います。
しかし、調査過程で下請法違反をキャッチアップする体制の不備が見つかることもありますし、改めて事業部門に回答してもらうことで自社のウィークポイントが明らかになることもあります。
例えば、「この部門は回答が遅くあまり理解していないな」と思えば法務が積極的に研修を行うべき事業所や取引内容が明らかになるので効率的に研修ができます。
そういう意味において、書面調査はまぁ必要じゃないかなと思います。
まだまだ収束を見せないコロナウイルス禍の中で迷惑な話だ!と思うかもしれませんが、調査を契機に実質的な対策を行ったり、法務の日常を快適にする機会につなげることもできるので是非前向きに奮闘していただければと思います。
それでは!