【書評】企業法務のための初動対応の実務
いきなり法務に異動になった方
一人法務の方
これから法務に転職する方
共通する悩みは型がないこと。
法務という仕事は専門性が求められますがいきなり経験豊富な人材はいません。
それに法曹資格を持った人でさえ対応に苦慮することもあるほど法律事務所の業務とも異なっています。
業界ごとに扱う案件も異なりますし一歩外へ出れば未経験の契約書なんてザラにあるわけです。
ですから、大企業でなければ属人的な業務となっていることがほとんど。
そんな私たちの悩みを一筋の光が照らした!
「企業法務のための初動実務」デデェェェェェェン
というわけで、本日はこの本を紹介いたします。
本書の特徴
- コンプライアンス
- 契約管理
- 債務管理
- 情報管理
- 労務管理
- 会社整理
- M&A
以上の項目が取り上げられている。
本書著者のインタビュー記事がビジネスローヤーに掲載されていた。
→ https://www.businesslawyers.jp/articles/726
そこに登場する「企業の法務部はかかりつけのお医者さんで、弁護士は専門医 」というフレーズは企業法務の在り方を端的にあらわしている究極の一言だと思う。
是非当該記事を読んでから本書を購入してほしい。(もちろん私のページから購入して……)
上述の項目が自分の会社に沿って理解できていればほとんどの事例を網羅できるだろう。
脱線するが、本書の筆者に長瀨佑志先生と 長瀨威志先生がいる。
私は「どうせ親子事務所の弁護士なんだろ」と思っていたら、双子の兄弟、しかも両方東大卒の元4大事務所所属という経歴であった。
神は二物どころか三物も、 長瀨兄弟に至っては十物くらい与えていると思いました。
話を戻して……
項目それぞれについて
法務として到達すべき理解を「目的」として記載しています。
まず初めにゴールがあってそこから、「項目特有の3つの特徴」、「図解付きの相談事例」、「注意すべき7つのポイント」といった流れで説明される。
このことから、本書最大の特徴は
情報の正確性、圧倒的網羅性、高い検索性を備えることといえる。
これらを兼ね備えた書籍はそんなにない印象。
ページ数も400ページなのでギリギリ通読もできる容量かつ辞書としても引きやすい分量となっています。
おすすめの使いかた
ケーススタディ
相談事例には、例えば以下のように図解があります。
(コピーできないので自作の例です。)
実際にありそうな例が図とともに載っていることからケーススタディとして使えます。
また、図でまとめられていることから、各部門からの法律相談の際もこうやってメモを取ればいいんだなと、メモの取り方まで参考にできます。
自分の型を作るだけでなく、後輩指導にも使えるなぁと思って読んでました。
知識の確認
法務がかかわる事項が網羅的に記載されていますので、読み進めれば自分の弱い分野が一度にわかります。
自分が新鮮に読めた部分は言い換えると知識が薄い部分とも言えます。
弱い分野がわかればその部分だけ深く読み込み、他の基本書で特化して鍛えても良いですね。
そんなきっかけを与えてくれます。
社内整備
企業秘密情報の管理項目では、管理そのもののポイントだけでなく実務的な社内整備の方法についても記載しています。
徹底的に実務に寄り添って知識だけではなく読んで実行できる本となっています。
自分の型やソリューションがない方は、本書に従ってとりあえず行動してみるのがオススメです。
動いてい内に自分の会社なりのアレンジを見つけることができます。
いいところ・わるいところ
いいところ
契約管理の分野、法務が一番かかわる点について非常に厚い記載がなされている。
例えば、契約の締結だけでなく履行、訴訟、執行保全までの流れが意識されており、いざ問題が生じたときのイメージがしやすい。
また、要件事実や主張立証責任についても言及されているので、普段何のために契約書を作成しているのか、改めて理解することができ日常業務にハリが出ます。
取引中の紛争発生リスク表については、全法務がコピーして持っておいていいくらい。
特に締結に意識はあっても、遂行に意識が薄いからね。
個人情報保護法や不正アクセス禁止法等の周辺領域についても触れており抜け漏れが少ない。
わるいところ
二色刷りではありません。
せっかく図解が多く読みやすい内容なので二色刷りのほうが良かったな~と。
この辺は好みの問題ですけどね…
一部の図にツッコミどころがある。
若干センターがあっていなかったり、文字とかぶりかけの矢印など。
リアルっぽくていいかもしれませんが個人的に気になったポイントです。
独禁法や下請法の記載が薄い。
この点は残念だが、ケースによるところが多い分野であるため、本書の分量をかんがみるとやむを得ないと思うが…
まとめ
情報の正確性、圧倒的網羅性、高い検索性を備えながらも限りなく実務に寄り添った良書です。
これ以上図解が多いと、中身がない本になりますし、これ以上法律論が増えれば実務からは外れて読みにくくなります。
よくある「すぐわかる!」的な本と基本書の間のかけ橋のような本。
必要にして十分という言葉がぴったりです。
にしてもこんなスゲー本を作った双子弁護士作者へのヘイトが高まりすぎてもうね…
ま、まぁみなさん手に取って読んでみてはいかがかな?
といったところで、本日はこれにて終了します!