「又は」と「及び」の使い分け 参考条項を添えて

企業法務

法務の方なら小さな言葉の使い方にも並々ならぬ神経を注いでいることだと思います。
そのなかでも尽きない悩みとして、「又は」と「及び」の使い分けがあります。

法務として知識があるために何でもかんでも、「又は」、「若しくは」の主従関係をつけなければならない意識になってしまい、又は若しくはのゲシュタルト崩壊を起こします。

そこで、あらためて「又は」と「及び」の意味をおさらいして、実際の条項を参考にして当てはめてみたいと思います。

OR グループ

「又は」、「若しくは」があり、言葉の選択的接続を示すために用います。
「AでもBでもどちらでもよい」という場合に使います。

①原則として、「又は」を使います。
 例:みかん 又は りんご

➁3つ以上の言葉の並列を示すときには、最後の言葉の前に「又は」をつけ、他の単語の間には読点を打つ。
 例:みかん 、 りんご 又は ばなな

③言葉のグループが2つあり、それに主従がある場合、主となるグループに「又は」を使い、従となるグループに「若しくは」を使う。
 例:果物グループとその中の柑橘グループの場合
 りんご 、 ばなな 又は みかん 若しくは ゆず という果物

AND グループ

「及び」、「並びに」があり、併合的接続を示すために用います。
「AもBもどちらも」という場合に用います。

①原則として「及び」を使います。
 例:みかん 及び りんご

➁3つ以上の言葉の併合を示すときには、最後の言葉の前に「又は」をつけ、他の単語の間には読点を打つ。
 例:みかん 、 りんご 及び ばなな

③言葉のグループが2つあり、それに主従がある場合、主となるグループに「並びに」をつかい、「従となる」グループに「及び」を使う。
 例:果物グループとその中の柑橘グループの場合
 りんご 、 ばなな 並びに みかん 及び ゆず という果物

ずるい英語表現

英文契約では and / or という表現が登場します。
日本語で、「及び」を使わずにあえて「又は」を使う場合、「AかBどちらか一方のみ」という意味にとる方もいますが、and / or を使うことで誤解が解けます。

日本語の契約でも「又は / 及び」と書いた契約書をたまに見ますね。
この場合、「又は」でも十分通じますが、片方でもよいし、両方でもよい場合は、又は / 及び を使うこともありだと思います。

参考条項を添えて

以上を前提に、参考条項を用いて「又は」と「及び」の使い分けをみていきましょう。

第18条
甲又は乙が次の各号の一に該当した場合、相手方は何らの催告なしに、本契約及び個別契約の全部又は一部を解除することができる。
①本契約又は個別契約に違反した場合
➁金融機関から取引停止の処分を受けた場合
③振り出した手形の不渡りを出した場合
④営業を廃止した場合

仮に柱書が
及び乙が次の各号の一に…となっている場合、「甲と乙がセットで」次の各号の一に該当する場合とも読めます。
ゆえに違和感を覚える方もいると思います。

これは柱書の主語が「相手方」になっていることが原因です。
よって、
甲及び乙は、相手方が次の各号の一に該当した場合、何らの催告なしに本契約及び個別契約の全部又は一部を解除することができる

このようにすると、「甲にも乙にも次の場合は」解除権があるよというニュアンスにとれます。
このように、主語を変えて修正することも可能です。

つづきまして、「本契約及び個別契約の全部又は一部を」という部分を見ていきます。
これを、前提に従って読むと、解除できるものは以下となります。
①「本契約の全部を解除する」、➁「本契約の一部を解除する」、③「個別契約の全部を解除する」、④「個別契約の一部を解除する」のうちから選べることとなります。

個別契約の全部又は一部となっているのは、全部を解除した場合には一部を解除することはできないし、逆もまたしかりだからです。
個別契約の全部及び一部とすると、全部と一部を解除するというよくわからないことになります。

仮に、「本契約又は個別契約の全部若しくは一部を解除することができる」とした場合には意味が変わってきます。
解除できるものは、「本契約」、「個別契約の全部」、「個別契約の一部」となります。
無理に「又は」「若しくは」の主従をつけることで、法的な効果が変わってしまうおそれがあるのです。

ですから、無理に主従をつける必要はありません。
「又は」などがわからなくなった場合は、「本契約の全部の解除をするか一部の解除をするか、個別契約の全部の解除をするか一部の解除するか選ぶことができる。」と口語で書いたほうがましです。
もちろん、そんなことは書きませんが、書いたからといって契約が無効になることはありませんし、少しカッコ悪い思いをするだけです…

また、「又は」、「及び」が大量に出てくる場合は、そもそも文章の構成が誤っている可能性が高いです。
この条項で何ができるのか/できないのか、書き出してみてから表現するのがいいと思います。

特に、反社条項でよくありますが、「A、B、C、D、E、F又はGに該当する場合」なら、「次の各号の一に該当する場合」として、A~Gを各号として列挙すべきです。

それでも迷ったら

とりあえず「又は」を使いましょう。
「又は」は選択的な意味なので、AかBの一方でも、両方でもよいという意味なので。

また、2つのことが同時に発生しえないときは「又は」、同時に発生しうるときは「及び」を使いましょう。

前述の「個別契約の全部又は一部を解除することができる」でも説明しましたよね。

………と、これを書いている自分も、書いてみてこれがあっているのか、ゲシュタルト崩壊を起こしてきました…
あっているのだろうかと心配になりつつ、本日はここで終わります。

最後までお読みいただきありがとうございました。