品質保証・秘密保持における優先条項の必要性

企業法務

最近弁護士の友人とゼミを始めました。
やはり契約ベースで話をする法務と、条文ベースで話をする弁護士との違いが垣間見えて非常に有意義なものになりました。
そのうち対談記事を作成するのも面白いなと。

大きな気づきとして今まで法務が当たり前のように触れていることでもフカボリすると内容を理解できていないことがあるってこと。

条文や法令の原則ベースで自社ひな型を見返して早速気づいたことをしたためました。

本日は優先条項について解説します。

優先条項とは

基本契約と個別契約の優先関係について定める条項で基本契約中に定められます。
(各社呼称は異なるかもしれませんが本記事ではこう呼びます。)

具体的には以下のような条項です。

本契約は、本契約に基づき甲乙協議して締結する個々の取引契約(以下「個別契約」という。)に対して適用する。ただし、個別契約において本契約と異なる事項を定めた場合、個別契約が本契約に優先する。

本条項があることで基本契約と個別契約中の矛盾や定職についてどちらを適用するか迷いませんよね。
ただし、この場合でも何が「異なる事項」であるか「矛盾・抵触」なのか議論になるリスクがあることをお忘れなく。

基本的に個別契約を優先させます。
以前の投稿でも示したように基本契約はあくまでも原則、ベーシックな規定がなされているからです。


で・す・が
私が経験した中で3件ほど、基本契約を優先させる条項を定めた契約書がありました。
個別契約は現場が自由に変えられるので本社管理の点から基本契約を優先にしたのか?
とも思いましたが、条件変更する際には基本契約に従って協議する→この協議が「基本契約の定め」として「個別契約に優先する変更」と扱うことには無理があります。メールくらいしか変更した証拠が残らないリスクもありますし。
かといって、条件変更を明確にするためにいちいち基本契約修正の覚書を取り交わすと機動性が悪くなります。

うーん…なぜ基本契約を優先したのかわかりません…理由がわかる方いたらツイッターで教えてほしいな…

優先条項がない場合

定めがない場合には、「特別法は一般法を破る/後法は前法を破る」の原則どおりに処理されます。

参考程度に以下記載。

特別法は一般法を破る

一般法と特別法とで法が異なった定めを置く場合、特別法の適用を受ける事項には一般法の定めが排除され特別法が優先して適用される。

民法と商法の関係、民法と製造物責任法の関係ではそれぞれ後者が優先されますよね。
基本契約と個別契約でも同様で、原則的な規定と特定取引の規定ですので、個別契約が優先すると考えられます。

後法は前法を破る

同一順位でかつ一般法と特別法の関係がなく、先に規定された法令と後に規定された法令がある場合は後法が優先して適用される。

基本契約間でも個別契約間でも同様に、それぞれ新しいものが優先されます。
よって、一番最新の個別契約の定めが過去の個別契約に優先します。
(といっても、この場合個別契約どうしは別の契約として同一順位といえるか謎ですが…)

小まとめ

基本契約よりも個別契約が優先され個別契約の中でも最新の個別契約の定めが優先されます。

……で終わりではなく、実は忘れられた優先関係があるんです。

基本契約と個別契約の優先関係については本投稿を読むまでもなくなんとなく把握していると思います。
それでは「品質条項と品質保証契約」、「秘密保持条項と秘密保持契約」の優先関係についてはどうでしょう?
法務の方もあまり意識せずに締結しているんじゃないかと。

基本契約と個別契約の優先関係よりも実務的な影響があると思うんですよね。

品質保証条項と品質保証契約

基本契約で品質書証条項が定められているのと同時に、品質保証契約が締結されていることがあります。
(呼称は品質保証協定となっている場合もあります。)
製造業界ならよくみるのではないかと。

製品の品質決定については、品質保証条項、品質保証契約のどちらにおいても「仕様書」が参照されることが通常であるためあまり問題ありません。

しかし、品質確保のための生産体制等について、品質保証条項では簡易な記載し課されないことが通常です。

たとえば
品質保証体制を確立、整備しなければならない。
製造工程その他の製造販売過程における品質管理状況を調査することができる。
など

品質保証契約ではこれら保証体制についての監査や報告方法について詳細に記載されています。
よって、品質問題が起きた際の製品供給についての債務不履行責任を考える場合、品質保証契約上の義務を履行していたかが判断されます。
品質保証契約が「特別法」のような扱いになるわけです。

万全を期すため、基本契約の品質保証条項には

品質保証については、別途甲乙間で品質保証契約を締結した場合、品質保証契約の定めが本契約に優先するものとする。

と記載すべきです。
(ただし、基本契約締結の都度、先方から今回品質保証契約の締結はありますか?と質問されることもあります。)

なお、品質保証契約の有効期間は甲乙間の基本契約の有効期間と一致させておくことが大切です。
そうでないと品質保証契約が古いまま残されて、基本契約だけが更新されている、基本契約がないのに品質保証だけが残っている場合が起こり得ます。
さらに優先関係が不明確になってしまいます。

秘密保持条項と秘密保持契約

品質よりも意外と問題になるのがコチラ。

基本契約に定められている秘密保持条項では、相互に開示する情報を広く秘密情報とカテゴライズし、第三者への開示を禁止していることが多いです。

例えばこんなカンジ

甲および乙は、相手方から開示を受けた情報ならびに本契約および個別契約に関連して知りえた相手方の技術上、業務上その他の情報(以下「秘密情報」という。)を秘密に保持し、相手方の書面による事前の承諾を得ることなしに、第三者に開示、漏えいしないものとする。ただし、次の各号に該当することを証明できるものについては秘密情報に含まれない。
(1)開示、提供を受けまたは知得した際、既に保有していたもの
(2)開示、提供を受けまたは知得した際、既に公知となっているもの
(3)開示、提供を受けまたは知得した後、自己の攻めによらないで公知となったもの
(4)正当な権限を有する第三者から、秘密保持義務を負わずに入手したもの
(5)相手方から開示または提供された秘密情報によることなく、独自に開発したもの。


反面、秘密保持契約では特定の開発・試作案件についての秘密保持の場合があり、案件が特定され秘密情報の種類、範囲が限定されていることがあります。

例えばこんなカンジ
本目的:甲の基板を乙の開発する測定機に適用する可能性についての検討
秘密情報:本目的に関し甲および乙が開示する情報で、開示の際秘密である旨の表示(「秘密」や「Confidential」)がなされたもの
禁止事項:第三者への開示、サンプルの分解、リビルドなど

上記の場合は、試作案件についての秘密保持ですが、秘密保持契約の契約目的等の定義があいまいな場合、秘密保持条項と秘密保持契約が抵触することがあります。

例えばこんなカンジ
本目的:甲が乙に依頼するイオン交換機の製造 とすると、開発・試作案件だけではなく量産化された後のイオン交換機の製造委託(個別契約)の場合にも秘密保持契約が適用されるようにも読めるので、基本契約と抵触するわけです。

この場合、基本契約の秘密保持条項のほうが広く秘密情報をとらえていることもあり、「特別法は一般法を破る」の適用を考えても、どっちが「特別法」なんだ?と不明確になります。

自社の秘密情報が漏れた場合、
先方は「この製品についての秘密保持については秘密保持契約が適用される。開示された情報に「秘密」である表示がなかったので秘密情報ではない。」と主張するでしょう。
反対に自社としては「秘密保持契約は試作段階までを想定した契約なので取引基本契約が適用されることから当該情報は秘密情報である。」と主張し真っ向対立します。
(といっても、実際には秘密保持契約の残存条項がありますから問題にはなりにくいですが)

実際にもめた際は両者協議することとなりますし、日常的に問題となることはないと思いますがリスクの芽は摘み取っておくべきです。

よって、基本契約の秘密保持条項に

別途甲乙間で特定の取引(試作案件等)について秘密保持契約を締結した場合、当該契約が本契約の定めに優先するものとする。

としたうえで(ここ大事です)、案件ごとに締結する秘密保持契約についても、契約目的が開発・試作案件であることを明記しましょう。

法務の方複数からヒアリングしても①基本契約の秘密保持条項がある、➁両者間で抽象的な秘密保持契約もある、③さらに特定案件の秘密保持契約の締結もあり、①~③の優先関係が明記されていない例がママあります。
(どうせ内部監査あたりからケチつけられて全取引先一斉に秘密保持契約だけをあわてて締結したんでしょう…)

また、会社の態勢にもよりますが、開発・試作案件にかかる秘密保持契約が知財部マターの場合があります。
法務部の審査する基本契約の秘密保持条項とズレが生じるので契約締結・保管ツール等で締結段階から両部門の契約内容を確認できる手段が必要です。
ツールがなければ秘密保持契約締結時のワークフローを法務部も確認できるようにしておく、ワークフローがなければ秘密保持契約締結時に法務も常にccに入れてもらうなどの対応が必要でしょう。

まとめ

以上のように、基本契約と個別契約の優先関係だけでなく、その他の優先関係も侮れないものです。

①この条項って何のためにおいてるのかな?
➁必要だとしたら他の条項・契約においても同様に問題になるのではないか?
③さらに一歩進んで、社内ではこのように業務フローを組めばリスク管理ができるのではないか?

まで進めることが法務に求められる仕事です。
私は65%くらいの力でらくーに仕事をしている法務ですので➁までしか進められていません。

こうやって法曹と会話して自分の弱点のあぶり出しをすることもお勧めです。
新しい観点に気付くことができます。

まったくの余談ですが、ツイッター上で法務の方、法曹の方に前回のあるある記事を広げていただいたおかげで、一日150ユーザー以上の閲覧および300ページ以上のPVを達成することができました。

素直にうれしいと思う反面、箸休めに書いた記事のほうがウケるのかと困惑しております笑

ということで本日はこれにて終了しますが、
本ブログを引き続きご愛読いただきますよう、よろしくお願いいたします。

以上