製造委託における取引基本契約書のチェックポイントと参考条項

企業法務

こんばんは。

最近過去のビジネルロージャーナルを読み返して、改めて実務に即した契約書関連記事は役に立つなと…

自分もそろそろ製造系法務として、役に立つ情報を提供せねばと、今回は製造委託に関する契約書のチェックポイントについて記載します。

少し長くなりますが、条項ごとに見出しをつけますのでご勘弁を!

※前提として、発注者を甲、受注者を乙と設定して記載します。

個別契約の成立

個別契約がいつ成立するのか、発注後、受注者が承諾するまでどれくらい猶予があるのか、必ず確認してください。

特に、発注者のひな型では、

「乙が甲の発注を受領した時から○○日以内に、乙から何ら意思表示がなされない場合は、乙は甲からの申し込みを承諾したものとみなす。」

等記載されることが一般的です。

この点、「○○営業日(乙の営業日をいう。)」と実務的に対応できるように記載を変更するべきです。
そもそも、発注者側も受注者が実務的に対応できない日数を定めてもリスクしかないことから、はじめから「○○営業日」としておいた方が印象が良いです

仮に、個別契約承諾のみなし条項がなくとも、ほとんどの場合、商法509条により、乙が承諾の意思表示を怠ればみなし承諾となりますが、商法上は明確な期間が記載されておらず、「遅滞なく」通知しなかったのかその期間の解釈にズレが生じて紛争になることもあります
よって、日付を明記しておくほうが良いでしょう。

個別契約の変更

製造業界では、基本的に発注者のパワーが強いことから、発注内容の変更を認める方向で協議が進むことが多いです。
実際、「甲は、個別契約を変更することができる。」と記載されていることも多いです。

しかし、受注者は不利益をこうむりますので、せめて
「甲の責め帰さない事由により個別契約を変更する必要が生じた場合、甲は乙と協議し個別契約を変更することができる。」
など、発注内容の変更はできるが、変更できるケースに条件を付すべきです。

また、発注者の自由な変更を認める場合であっても、受注者は、
「甲は、乙の承諾後であっても、個別契約の内容を変更することができる。ただし、甲は、当該変更により乙に生じた損害を賠償する責を負う。」
とただし書を追加し、権利保護を図るべきです。

この点、発注内容の変更が認められない条項となっていても、事情変更の法理が適用される可能性があります。
しかし、同法理については、判例認められたり認められなかったり、要件が明確であるわけではありません。ましてや企業法務担当者がこれを狙って、個別契約の変更について明記する必要はないと判断できるものではありません。

ですから、必ず個別契約が変更できる場合と、その条件について明記が必要なのです。

受入検査と合格基準

受注者が発注者に製品を納める際、発注者が求めた仕様に製品が適合しているか判断するための検査を受入検査といい、原則発注者がこれを行います。
(だって、どんな製品がほしいか、その基準を持っているのは発注者だからです。)

この受入検査、場合によっては受注者側で検査することも含めて委託される場合があります(もちろん、この場合には発注者の受入検査は省略されます。)。
この場合は特に、発注者が求める仕様と検査項目が明確になっている必要があります。

例えば、プラスチック成型品ですと、検査項目になっているツメの部分は検査合格基準であっても、見えない裏面にあるダレがあるから不合格にするなど、理不尽な不合格も起こり得ます(裏面については仕様上問題がないこと前提です)。

また、いつ受入検査を行うかは、契約上あやふやにされやすいポイントです
受注者は必ず「甲が乙から製品を受領してから○○日以内に受入検査を行わない場合、当該製品は検査に合格したものとみなす。」と条項を定めるべきです。

逆に発注者側は「甲は、乙から製品受領後遅滞なく受入検査を行うものとする。」など抽象的に記入し、契約外の交渉で「通常は○○日で検査します。」と検査の見通しを決めて納得してもらうこともあり得ます。

瑕疵・契約不適合

ここは、どの法務の方も注意している点だと思いますが、瑕疵や不適合については何をもって瑕疵や不適合とするのか、何を請求できるのか、その期間をどうするか、等が問題となります。

瑕疵や不適合については、「甲乙協議によって定めた仕様」、「甲が提出し乙が確認した仕様」など基準を記載しておくべきです。

期間については、基本的に発注者が強いので、民法・商法の原則通りとならず、落としどころとしては、やはり検査合格後1年間とされることが多い印象です。

この点、あらかじめ営業間で保証条件を、製品の製造から○○カ月としてもらうことも考えられます。
受注者として注意すべきは、保証期間が定められていても「ただし、乙に帰責性のある瑕疵や不適合についてはこの限りでない。」など余分なものが定められている場合です。
この場合、最悪のケースとして(認められるかはともかく)帰責性のある不適合についてはこの限りではない=期間制限を設けない趣旨だと主張されることがあります。
実際に私も遭遇してポカーンとしました…

検査もするわけですし、瑕疵や不適合については、期間経過後に発覚した部分は有償対応とする旨記載するべきですし、別途責任制限として「製品の年間販売価格」までしか保証しないなど上限を定めることも考えるべきです。

また、よくありますが「重大な瑕疵についてはこの限りではない。」など、いつまで責任を負わされるか不明瞭となっている条項もあります。
「重大な瑕疵」の概念が不明瞭であること、「完成検査や受入検査もおこなっていることから、それでもわからない瑕疵については設計上の瑕疵だろう」など乙の責任がないことを主張し、条項の削除を求めるべきです。

それでも、自動車業界等では、長期の保証や責任を求められることがザラにあります。
よって、たとえ条項を修正できなかったとしても、受注者は、PL保険やリコール保険に加入してリスクを回避することが必須です
保険加入の費用については、製品に上乗せするか、甲に負担してもらうkとが落としどころだと思います。
また、保険加入の際は、発注者が加入する保険の追加被保険者となることで少しでも費用が抑えられることを覚えておきましょう。

瑕疵や不適合発生時の対応については、修補や代替品の納入、代金減額や返金等がありますが、発注者はこれを列挙したうえで、「甲の指示に従い、瑕疵の修補、代替品の納入、製品代金の減額……」と記載することで、柔軟に受注者に対応してもらうことができます。
逆に、受注者としては、極力、減額や返金を避けて列挙し、修理だけや代替品の納入だけなどの手段に限定すべきです。
例えば、「修補が可能な場合は修補をおこなうこととし、修補が不可能な場合には代替品を納入する。」などの記載です。
また、代替品の納入については、製品がすでに廃盤になっていたり、製造できなくなっている場合もあります。
その場合には、代わりに納入した製品が代替品といえるのか、という問題も発生するので、事前に代替品の候補や、仕様が変わってもよい部分を確認しておくことが安全です。
また、受注者がカスタマーへ直接保証対応する内容の条項が付されている場合は、次で説明する製造物責任の条項がある場合は、「そちらに定められているので削除してください。」とか理由をつけて削除を依頼しましょう。

製造物責任

受注者は、カスタマーに生じた製造物責任法上の責任を法的にも道義的にも負うべきだと思います。
ただし、すべて受注者が責任を負うことは適切ではないため、製造物責任法上の例外条項である4条は、そのまま契約書中に定めることが適切です

受注者としては、「発注者と協力して解決にあたる」など定めるのがいいです。
また、受注者が一番注意すべきこととして、発注者から、「製造物責任法に基づく規定だから!」と説明されて、なんとなく製造物責任条項を認めてはいけません。

当該法令には、対カスタマーに負う責任は規定されていますが、発注者と受注者間での賠償や顧客対応については定められていません。
よって、法令にないオプションを認めてしまうこととなります。


反対に、発注者としては、
「受注者が自己の責任と費用をもって解決にあたる。」
「発注者が紛争解決に要した費用を賠償するものとする。」
などと定めるべきです。
ただし、発注者が有名なメーカーである場合には、自己の製品は責任をもって顧客対応するという考えを持っている場合もあるでしょう。
そんな場合は、カスタマーへの対応はすべて発注者側で行うが、発生した費用を全額ないし折半で受注者に負わせるとすることもありだと思います。 

知的財産

正直ここは詳しいポイントではないので、有益な情報は記載できませんが、受注者としては、そもそも受注者が有している知的財産権を譲渡するわけではないことを明記し、発明ができた場合は共有と記載することもありだと思います(もちろん状況には寄りますが)。
なぜかといいますと、知財の帰属については協議で定めるとされる場合もありますが、受注者のパワーが弱ければ、甲に帰属すると書いていることと同義です…
また、知的財産が相手方にわたる場合であっても、○○の用途については使用を許可するなど定めておくことで、手も足も出ないことは防ぐことができます。

この辺は知財部のほうが詳しいかもしれませんね。
下手に知識がないのに承諾しないことが大切。
困ったら案件の重さによって顧問弁護士に相談しよう!

再委託

製造委託は請負契約ですので、受注者が再委託することは原則自由です。
しかし、発注者としては、自社製品のトレーサビリティの観点、近年高まるコンプライアンス意識から、再委託先について管理を行うことが必須となります。
情報漏えいの防止にも一役買いますので。

よって、「乙は、甲の書面による事前承諾なしに本件業務を第三者に再委託することができない。」など記載するべきです。
また、受注者から、「制限するのであれば、承諾に必要な書面のフォーマットをください」と求められた場合は、受注者名、再委託先の会社名と住所、代表者名を記載した再委託承諾書(仮名)を作成し、受注者に記入を求めてください。
承諾書に受注者と再委託先代表者の押印をもらうことがベストですが、厳しい場合はせめて部門長の印はもらっておくべきでしょう。

逆に、受注者としては、承諾書面を交わすことが事務的に面倒な場合、再委託はすべて乙の責任で行うことを明記し、自由に再委託することができるようにすることが考えられますが、冒頭の理由から認められるケースは少ないでしょう。

なお、そもそも発注者、受注者、再委託先で打ち合わせのうえ、発注者と受注者で契約締結に至った場合でも、契約書の文言的には、事前承諾の書面をとっていない以上、勝手に再委託したととられかねません。

よって、契約締結と同時に再委託承諾書を作っておくか、契約書に「別紙記載の第三者を除き、再委託を禁止する。」と記載し、別紙をつけて再委託先を記入しておくことが考えられます。

報告義務

ISOに準拠した契約の場合、4M変更(機械、方法、材料、人の変更)が生じた場合には、受注者から報告を受けることが必須です。
よって、受注者に報告義務を課すべきです。

また、変更が生じていなくてもSDSなどの書面を顧客から求められることもありますので、発注者は受注者からいつでも情報をとれるようにしておいたほうが良いです。

この点、受注者としては「必要書類の提出」といった文言はリスクがありそうで怖いですが、飲むほかない場合が多いと思います。
製造現場で必要な書面はさまざまであることから別紙に列挙はできないと思いますので。
ただ、これにかこつけて関係ない書面まで提出させられないように、開示したくない書類を例外条項として定めたり、「甲乙協議の上、甲が要求する書面」など記載することが考えられます。

また、実務上の観点として、書面を提出させるなら事務手数料を製品代金に上乗せするとか、対応する場合は別途代金を請求するといった条件を付けてもいいと思います。
ただし、別途請求するといった場合、「製品代金は○○、○○等すべての費用を含む。」と他の条項で記載されている場合は、バッティングすることもありますので要注意です。

チェンジオブコントロール(COC)条項

製造業会においては、発注者と受注者に継続的な関係ができます。
もちろん、発注者が強いことが多いですが、受注者も発注者の秘密情報を多分に握っている状況となります。

よって、受注者が他メーカーに買収されることがありうる場合は、情報やノウハウが流出しないように、買収して経営権に変更が生じた場合、無催告で契約解除することができる条項を締結することがあります。
これをチェンジオブコントロール条項といいます。

受注者が多数の有力メーカーと取引があり、そのノウハウがほしくて倍取したいと狙われたとしても、受注者がそれぞれのメーカーとCOCを定めて契約締結していることを公言することで「買収すれば商流や取引関係が保てなくなるぞ、ノウハウもなくなるぞ」と脅しをかけることができ、買収対策となります。

完全条項

英文契約でよく出てきますね。締結した本契約、すなわち基本契約のみが効力を有し、事前交渉やメールでのやり取りは契約内容として一切考慮されなという内容の条項です。

交渉や打ち合わせの多い製造業界では、当該条項を置くことで契約条件以外の不明確な情報を排除できるため非常に有意義な条項だと思います。
いった、いわないの争いも排除できますし。
また、「よくわからない条項だが害がなさそう。」とスルーされて締結できることも多い笑
けど、普及しませんよね…なぜなんでしょうかね…

製造業界では、法律の常識が通じないことが良くあります。たとえ完全条項を定めても、発注者がシロといえば黒いカラスもシロくなる。
契約書に書いていないことでもめて問題が発生しても、最終的には受注者に責任を押し付けられるか、よくて折半する感じですよね…
(大手メーカーや自動車tier0,tier1メーカー死ねと思う…)

だからかな、この条項普及しないのは…

裁判管轄

なんとなくおいている場合もあると思いますが、ただの合意管轄ではなく、「専属的合意管轄」と記載することがポイントです。
ただの合意管轄ですと、付加的管轄と解釈される可能性があり、裁判所が選択できる余地を与えてしまいます。

また、紛争の種類を特定する必要がありますので、「本契約に関して発生した紛争」など特定してください

たまに、裁判管轄の代わりに「仲裁」について記載している契約書もあります。
しかし、仲裁については、経験や蓄積のある日本企業はまずないと思いますので、安易に仲裁にしないほうが良いです。
裁判と異なり、手続き自体の費用がかなり掛かりますし、場所によっては渡航費人件費も馬鹿になりません。
ですからやみくもに裁判の代置として仲裁規定を置かないことをお勧めしています。

まとめ

以上、だーっと記載しました。

今までの自分の経験を書きなぐりましたが、やっぱり弁護士先生やプロ法務の方ってすごいなと思います。

文章力もそうですし、実務経験に即したサンプルの示し方もすごくうまいし…
彼らに一歩でも近づけたらいいな…

しばらくたって見返したら赤面するような箇所もあると思いますので、その際はこっそり修正させていただきますね…

ということで、本日はここまで。
最後までお読みいただきありがとうございました。