不可抗力条項を見直す【コロナウイルスを契機に】

企業法務

東日本大震災や、関西関東で猛威を振るった台風など、法務の方は、不可抗力条項(Force Majeure)について見直すべき機会が増えたのではないでしょうか。

今回のコロナウイルスのパンデミックについても同様で、経験の浅い法務部員の中には、はじめて不可抗力条項を使った方もいるのではないかと思います。

そこで、今回は読み飛ばしたり、コピペして記載されることも多い不可抗力条項について記事にしたいと思います。
※日本語ベースで記載します。

不可抗力条項とは

不可抗力条項とは、天変地異など当事者の合理的な支配を超えた事象が発生し、当事者が債務の履行をできない場合又は履行が遅滞する場合であっても、債務不履行責任を負わない旨を定める条項です。

日本民法の債務不履行においては、過失責任の原則があり、当事者の帰責任性がない限り不履行による損害賠償責任を負わないことが原則です。

一転して、英米法体系の国家においては、契約には厳格責任が求められ、債務不履行責任を請求するために相手方の過失は必要ありません。

ですので、当事者が自らコントロールできない事由によって債務の履行ができない場合のリスクを回避するため、本条項を規定することが慣例となりました。

今日の日本においてもよく見る条項なのではないでしょうか。

よく新人法務が誤解する点として、不可抗力条項と危険負担の混同があります。
不可抗力条項は、あくまでも債務不履行責任を負わないということ、すなわち、解除や損害賠償の請求から当事者を解放するものです。

これに対し、危険負担は、債務の履行が不能になった場合の反対債務の消滅に関して規定したものです。

誤りそうになりますが適用場面が異なります。

不可抗力条項の詳細については以下の書籍から。

不可抗力条項で定めるべき内容について

不可効力条項では、以下のような記載をするかと思います。

甲及び乙は、台風、津波、地震その他の天変地異、戦争、紛争、内乱、法令の改正など当事者の責めに帰すことのできない事由(以下、「不可抗力」という。)により、本契約又は個別契約の一部又は全部の履行が不能となった場合、相手方に対しその責任を負わない。

しかし、こういった雰囲気的な不可抗力条項では不十分です。

不可抗力条項で定めるべき内容は次の3点です。
1.不可抗力の範囲
2.不可抗力が発生した場合の効果
3.効果を受けるために必要な行為

以下、個別に説明します。

不可抗力の範囲

不可抗力と言われると何を想像するでしょうか。
皆様が思い浮かべる内容は一様ではないように、「不可抗力」という言葉の定義は多様です。
よって、不可抗力の定義を定めておくことで、解釈の紛争を避けることができます。

製品の買主としては、できるだけ狭く解釈して、売主に対し損害賠償請求できる余地を残しておくべきであり、反対に、売主はできるだけ不可抗力の範囲を広く解釈するべきです。

地震や、台風等が該当することに問題はないと思いますが、不可抗力=「自らコントロールすることができない事由」と解釈するのであれば、労働争議は不可抗力の範囲から省いて規定することとなります。
また、不可抗力事由について、列挙したものだけを不可抗力として扱う限定列挙と、それとも列挙したものは例示にすぎないという例示列挙があります。

もちろん、不可抗力を狭く解釈する場合は限定列挙すべきですし、広く解釈する場合は例示列挙すべきです。

不可抗力が発生した場合の効果

不可抗力が発生した場合の効果として、ベーシックなものは、当事者は債務不履行責任や履行遅滞の責任を負わないというものです。

契約で不可抗力条項を定める場合、契約自由の原則により、規定の方法は自由であることから、債務不履行からの解放に加えて、危険負担の定めを含めて、残債務の消滅について、合わせて記載することもあります。

ここで問題となるのが、買主の売主に対する債務は、通常、金銭債務となることです。

金銭債務には履行不能という概念がありません。(民法419条3項)

よって、売主としては、不可抗力が発生した場合でも、代金支払債務は免除しないという定めを設けるべきです。

これに対して、買主としては危険負担債権者主義のように、反対債務を消滅させる定めをおくべきです。

また、仮に金銭債務が残る場合であっても、不可抗力によって通常の送金方法がとれないことがありますので、少なくともその他の送金方法や、これによる手数料負担増については、売主に負担してもらう等の定めが考えられます。

効果を受けるために必要な行為

仮に不可抗力が発生したとしても、すでに当事者が債務不履行であった場合は、当該債務不履行を不可抗力によって免除することは不合理です。

よって、恩恵を受けることの出来る条件として、「不可抗力発生以前に債務不履行に陥っていないこと」を定めるべきです。

また、不可抗力が生じ多少の履行困難が生じたが、売主が努力することで履行が可能である場合もありうるので、「売主が不可抗力事由の発生後速やかに買主に書面をもって通知し、履行再開に向けた努力を行った場合」など、免責を受けられる条件について制限することも一つの手段です。

実務では

このように改めて考えてみると、不可抗力条項は、奥が深くコピペしただけでは問題のある条項であるといえます。

コピペしたり、タイトルで「不可抗力」と見ただけで読み飛ばしたりしていませんか?笑

している場合は、前述した観点で不可抗力条項を審査してみましょう。

また、実際に不可抗力条項を適用する場合に問題が発生するのは、不可抗力と履行不能の因果関係です

不可抗力に該当しそうな現象が発生しているが、果たして売主の履行遅滞や不能が、この不可抗力に関係しているのかということ。
法曹資格のない法務担当者で判断することは困難だと思いますし、安易な当てはめはできません。

よって、不可抗力条項を定めて、実際に援用する場合があっても、先方が「はい、いいですよ。」と債務を免除してくれることはないでしょう。
不可抗力条項を契約書で定めることは必須ですが、ことが起これば直ちに損害を最小限にする努力を行い、先方に通知して協議する姿勢が大切となります。

不可抗力条項の適用に、相手方への書面通知を求めるにしろ、求めないにしろ、不可抗力宣言書(相手方に、不可抗力が発生したので履行できません or 履行が遅れますと宣言する通知書)のフォーマットを作成しておくべきです。

まとめ

今回のコロナウイルスパンデミックが、不可抗力条項に該当するかということについて、ここまでお読みの方ならわかると思いますが、結論「わからない」ということ。

そもそも不可抗力条項の定め方、援用の仕方で異なると思いますし、実際に生じた債務不履行とコロナウイルスパンデミックとの因果関係があるのかも、債務の性質によります。
また、日本国ないと外国ではこのような事象が発生した場合の適用法令も異なります。

よって、我々ができることとしては、元も子もありませんが、以下の4点かと思います。
(記事のアクセスがかなり多いため2020/3/11 追記。)

①今後作成する契約書には、「伝染病」を不可抗力条項に定めること
➁履行不能を具体的に記載すること 例「○○の場合は不能とみなす」など
③中国(だけではないが)のサプライヤーや顧客を洗い出すこと
④上記の社内担当者と、履行不能等が発生した時の対応を定めておくこと
⑤不可抗力宣言書のフォーマットを作成して顧問弁護士のレビューを受けること


今回のコロナで、不可抗力条項の複雑さと大切さがわかったのではないかと思います。

かくいう私も、きっちり見直していきたい所存です。

簡単に、アメリカや中国での不可抗力条項の判例も調べておくべきだなと思いましたが、弊社、判例検索システムを導入していなかった…

さっそく、リーガルテックを導入していない弊害がでてるな…

とうことで、今回の記事を終わらせていただきます。