【契約書修正】本体 or 覚書 どちらで修正するか?

企業法務

みなさんこんにちは。

ふとした拍子に投げかけられた質問から改めて考えることってありますよね。
先日、営業担当者から「なぜ基本契約を締結する際に基本契約を修正する覚書を締結するのか?」と聞かれました。

普段何気なく行っている契約書修正。深く考えずに対応していました。

基本契約を締結する際に条項の修正を行うことがあります。
この場合、本体(基本契約)そのものを修正するときと基本契約を修正する覚書を作成して基本契約と同時に締結するとき、2通りの方法があります。
後者の場合は、取引基本契約を修正せずに締結し同時に基本契約を修正する覚書を締結します。
(基本契約の適用範囲を特定製品に絞るとか、事後的に条項を追加する場合の覚書は除きます。)

本日は、この契約書本体を修正するパターンと別途覚書を作成するパターンについて思うところを綴ります。

契約書本体を修正するパターン

契約書修正の多くがこのパターンに該当します。
修正の方法は様々です。

ワードの校閲タブにある「変更履歴の記録」をONにして、削除加筆を行うことが通常かと思います。
修正理由の記載方法についてはバリエーションに富んでいるようです。

ワードのコメント機能を使う場合

メリット:文書内に修正理由が入らないので見やすい
デメリット:コメント表示をONにしないと表示されない、印刷時にレイアウトが崩れることがある

スミカッコ【 】を使う場合

メリット:文中に修正理由が表示されるので見逃しがない。
デメリット:「変更履歴の記録」をONにして先方修正理由を削除すると、文章が見にくくなる。

修正理由を別途ワードやエクセルにまとめ記載する場合

メリット:修正理由が長文になっても見やすい、修正部分のやり取りが明快になる。
デメリット:ファイルがかさむ、契約書のバージョンと修正ファイルのバージョンの二元管理が必要

そもそも修正理由を書かない場合

メリット:見やすさNo.1、案外書かなくても問題が生じない
デメリット:修正理由を聞かれるとひと手間増える

私見

弁護士先生は主にスミカッコを使っているイメージ。
私の企業法務歴では修正理由を書かない場合も多くみられるので無駄に時間をかけるなら書かないのも手だと思う。

嫌なパターンは、修正部分に「文字の網掛け」または「マーカー」を引いているパターン。
これに「変更履歴の記録」ONが重なると、何がどう修正されているのかわからんくなるからやめてほしい。

また、皆さん経験あろうと思いますがコメント欄を使って相手方を半ば貶す行為も見られますよね。
・細かすぎる読点、句読点の修正
・てにおはの修正
・「何を意図しているのかわかりません」を連発
・「具体例を示してください」を連発

この辺は相手方をディスっているとみられかねない行為です。
言い回しに多少の不自然さがあったとしても解釈が変わらない、内容が特定できていれば問題がない場合がほとんどです。
例えば、口語調で統一されている契約書をすべて赤字で修正して回る必要はないと思います。

そこなでするなら自社ひな型を使ってもらえないか打診しましょう。
ただし、営業担当者同士で先方ひな型を用いると決定した場合はちゃぶ台返しになってしまうことに注意が必要です。

私はディスられても一切誘いに乗らないタイプですが、「片手落ちになることが理解できませんか?」、「初めてこのような修正を見て困惑しています。」、「却下、修正根拠に乏しい。」などイラっとする記載を経験しています笑

反対に気持ちいいやり取りができたときには、先方法務に直接メールする際に必ず感謝を添え、間接的なやり取りの場合は営業担当者に「先方の法務の方が素敵だって伝えてくれ」と伝言しています笑

社内の仕事でストレスがたまりますから、社会人として相手方を尊重するやり取りを心がけて善の輪を広げていきましょうね!

覚書によって修正するパターン

さて本題ですが、前述のように基本契約自体を修正することが可能なのに、なぜ覚書によって基本契約を修正するのでしょうか。

例えば以下のような感じ

取引基本契約に関する覚書

下記当事者は、両者間における2020年5月1日付取引基本契約書(以下「原契約」という。)に関し、原契約の一部を変更することに合意し、次の通り覚書(以下「本覚書」)を締結する。

第1条
原契約第○条を次の通り変更する。
甲および乙は、~~~~~~~~~~

覚書の中には、例に挙げたほか新旧対照表のように表で修正を示すもの、修正部分をアンダーラインで示すものがあります。

この場合、基本契約を無修正で締結するのと同時に修正する覚書を締結します。
よって、取引先リストの中から「取引基本契約書あり」、「自社ひな型」、「覚書なし」となっている取引先とは、自社ひな型そのままの基本契約があると一目瞭然です。管理しやすいんですね。
また、覚書がある取引先に対しては覚書を見ることで「どの部分」が「どのように修正」されているかもわかりやすい。

デメリットとしては、基本契約を参照する必要があるので条数の書き間違えが重大な間違えになること。
基本契約と覚書の二元管理が必要なので原本・ファイル保管の煩があること。

なお、覚書で基本契約の条項を消したい場合は「削除」と「削る」の違いを理解する必要があります。

削除する

「基本契約第16条を削除する」の場合、基本契約第16条の条数は残り、内容だけが消えます。前後の条数に影響がありません。

削る

「基本契約第16条を削る」の場合、削り取るのでその部分がなくなって前に詰めます。
よって、第16条がなくなって旧17条が16条に繰り上がります。
まぁ削るはめったと使うことはないですね。

このように言葉一つで大きく変わるので要注意です!

話を戻します。
契約書本体を修正するか覚書で修正するか私見としては…
うーん。時と場合によりますが、少なくとも弊社では基本契約本体を修正することが基本。自社から覚書によって修正することはまれです。

先方から基本契約の修正は同時に締結する別途覚書でお願いしますと提案された場合は拒まずに乗っかっていますが。

大企業で覚書を用いて修正管理している場合を見ることはありますが中小企業ではあまり見ませんね。

追記【2020/05/23】

ツイッターでの法務・弁護士の方から複数コメントいただきました。
基本契約締結時に基本契約を修正する覚書を同時に締結する趣旨は、変更点を明確化するため、すなわち管理を重視したためとみられます。
大企業にこのスタイルが多いこともうなずけます。
(宇奈月温泉のせいで「うなづく」と表記してしまう癖があるという小話)

中小企業の場合、契約管理を行う人員が少ないこと、契約書管理のシステムが弱いことから二重の管理は厳しいですから…

管理の便以外に、業界によっては修正覚書を用いることが慣行になっている場合もあるようです。
例えば、システムの保守や不動産の賃貸借等、規約や約款のような体裁になっている場合は契約のフォーマットを崩さずに、別途覚書を同時締結することで修正するようですね。

管理を減らしたうえで基本契約自体の記載は変更したくない場合は、別途覚書ではなく契約書末尾に修正点をまとめた一覧を添付することも考えられます。
押印も一度で済むことから社内手続きが簡便になるメリットもあります。
ただし、製造業界(プラ・鉄非鉄・化学・電子)ではあまり見ないスタイルなので先方から拒絶反応を示されると思いますが…

別途覚書で法務が注意すべき点は、基本契約の締結と必ず同時に修正覚書を締結することです。

基本契約締結後に修正覚書を締結できるとは限りません。
契約締結は自由ですから、修正覚書の締結を相手方から拒否されると先方ひな型の基本契約書を無修正のまま受け入れたこととなってしまいます。

特に、取引開始に基本契約の締結が必須である場合は、とりあえず基本契約を締結して後で覚書を作成すればいいではないか、といった考えを持たないことが重要です。
現場の人間(営業)からは法務のせいで取引が開始できないと思われてしまいますが相手方の意のままの取引条件になる重大リスクがありますから、見切り発車で取引が進まないように目を光らせる必要があります。

最後に

普段あまり疑問に思わないことでも調べればそれなりに理由がありますね!

皆さんの会社ではどうでしょうか?
もっといろんな修正方法や、方法ごとのメリットデメリットもあると思うのでツイッターで情報収集していきたいですね。

本日はこれにて終了です。
最後までお読みいただきありがとうございました。