民法改正の落とし穴!ここに気を付けろ契約不適合!

企業法務

去る2020年3月31日をもって、齢120歳の民法が改正され新民法となりました。
ツイッター上でも民法を追悼する面白ツイートが見られ、法務的には大変賑やかな1日でした。

さて、私の元にも改正民法に対応した契約書の再締結以来がきてます。
その中でここは気を付けるべきだと思った点があります。

ということで本日は民法改正に伴う取引基本契約書の注意点について記載します。

前提

契約不適合部分のみ取り上げます。
製造業界、従来の取引基本契約で瑕疵担保責任として以下の条項を定めていることを前提とします。

旧条項
甲が本製品を受領してから6ヶ月以内に、本製品に瑕疵を発見した場合、甲は乙に代替品の納入、代金の減額、瑕疵の補修、もしくは瑕疵の補修にかかる費用を請求し、またはこれらと合わせて当該瑕疵により甲が被った損害の賠償を請求することができる。

また、契約の再締結案については以下の条項が記載されていることを前提とします。

新条項
甲が本製品の契約不適合を発見した場合は、発見後1年以内に乙に対し、代替品の納入、代金の減額、不適合の補修、もしくは不適合の補修にかかる費用を請求し、またはこれらと合わせて当該契約不適合により甲が被った損害の賠償を請求することができる。この場合において、乙は理由のいかんを問わず甲が選択した方法と異なる方法による措置をこうずることができないものとする。

権利行使期間

旧民法の瑕疵担保責任では、製品の瑕疵について「事実を知った時から1年以内」に「解除または損害賠償の請求」をしなければなりませんでした。
この点、実務上は旧条項のように、瑕疵担保責任の請求期間について旧商法526条2項および旧民法570条・566条3項の適用を排除し「製品受領から○ヶ月以内に瑕疵を発見したとき」と規定してきました。

今回の民法改正にともない、再締結案に原則である「発見後1年以内」を改めて定めてくる契約書をよく目にします。
このままの状態で「民法改正に対応しました」と説明を鵜呑みにし契約締結してはいけません。

「発見後(事実を知った時から)1年以内」という規定にすると、「製品受領後10年以内の間で、買主が不適合を発見してから」1年以内に発見された不適合が対象となるからです。定めること自体が売主に不利となっています。

よって、契約書の修正として従来通りの「受領から○ヶ月」と記載するように主張する必要があります。

通知か請求か

旧民法では瑕疵担保責任について瑕疵の発見後1年以内に相手方に「解除または損害賠償の請求」をすることを必要としていました。

この点、新民法では契約不適合の発見後1年以内に相手方に「通知」すればよいとされており条件が緩和されています。

実務上は契約書で「発見後1年以内に発見した場合~できる」と規定されており、そもそも1年以内に瑕疵や契約不適合を「発見」しただけで請求できる権利が発生しているのか、「発見した通知」が必要か、実際に「請求すること」が必要なのかあいまいに規定されています。

契約の再締結に伴い明確に記載することで、いきなり請求を受けるリスクを回避できます。
売主としては「製品受領後○ヶ月以内に発見して通知する。」と修正するべきでしょう。
まぁ実務上は契約不適合が明らかになれば直ちに連絡が来て検品させられるのであまり問題にならないと思いますが…

追完方法の選択

見落としがちな部分です。
旧条項では買主が追完の方法について自由に選択できるようになっています。

しかし、新民法572条1項ただし書に
「ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完を請求することができる。」
とあります。
原則買主が自由に選べるが売主の便宜も図られているわけです。

これを旧条項に当てはめてみると「買主が自由に追完方法を選択できる」、「売主は買主の選択に従って追完する」と規定されている場合、新民法の572条1項ただし書を排除したか定かではありません。

よって、買主は自らの選択によって売主に追完させたい場合、新条項のように甲の選択がどんな場合でも優先されることを明確に定め、新572条1項ただし書の適用を排除する規定を定めるべきです。

反対に売主としては新条項の後段部分を削除するべきですし、新民法の定めについて意識されていないひな型であれば、なにも追記せず売主自らが追完方法を選択すればよいです。
ただし、実務上いきなり買主指定の追完方法ではなく、売主が勝手に追完することはないと思いますけどね…
あくまでも売主に選択できる余地を認め、より良い追完のための交渉材料になるだけではないかと思います。

仮に売主指定の方法で追完することがあれば買主との全面戦争を覚悟してやることですね。
ハナから買主を信頼して追完方法のハンドリングを任せるなら、売主側から契約書に追完方法は買主の選択によってのみ決定される旨、追記してもいいと思います。

まとめ

少し内容が薄くなりましたが、直近で同じような基本契約の再締結が続いたため取り急ぎ記事にしました。

改正にかこつけて強行規定でない部分を自社有利に定めなおすパターンが多いです。
漫然と締結すると営業担当者も保証条件を変更した覚えがなく、現場と契約文言との間で齟齬が生じる可能性があります。

また、「民法改正対応での再締結、従来と変更ないので押印後返送してくれ」と先方営業にいきなり契約書が2部送付されることもあります。

この場合、法務が介入せずに契約書が更新される危険があるので先方から契約書原本が送られてきた場合も必ず法務に郵送するように連絡・指示を徹底しておくことが必要です。

来年だからと余裕をかましていた民法改正。
ほんとうにあっというまでしたね。

この調子で他の法改正も………
とならないようにきっちり改正対応しましょうね!
備えあれば憂いなし!

皆さんも是非日頃から準備しましょう。
それでは。